梅雨時期は転勤者のメンタル不調に注意

「転勤」―環境変化が与える影響

4月からの部署異動や転勤の混乱が落ち着き始める、梅雨に入るころ…。

新しい環境に少しずつ慣れてきて、仕事の理解ができ始めたちょうどこの時期、転勤者から、「心身の疲れ」が訴えられることがあります。

 「転勤」とは、人事異動のうち転居を伴う異動を示し、ご家族と一緒に異動するケースもあれば、単身で異動されるケースもあり、職種・業種によって転勤の有・無、頻度は異なります。転勤の多くは4月・10月ごろにあり、梅雨時期と年末あたりに転勤者からの不調が多く訴えられます。

転勤は、単身異動でも家族一緒の異動でも、労働者本人、そして一緒に異動したご家族に、とても大きな影響を与えます。単身転勤者は、新しい環境に慣れる寂しさや大変さが一人で抱えこんでしまったり、ご家族で異動される場合は「家族がいてくれるから大丈夫だね!寂しくないね!」と、周りに受け取られてしまい、フォローが行き届かないことがあります。

生活環境が大きく変化し、その変化の中で業務を遂行しなければならない転勤の「ストレス」について、もう少し詳しくみていきましょう。

転勤者が抱えるストレスとは?

転勤者は、引っ越し作業の身体的な疲労感に加え、各所への届出提出や、車を持っての異動であればナンバープレートの変更や車庫証明など、様々な手続きに追われ精神的なゆとりを作るのが難しくなります。それに加え、引っ越し先の隣に住む方にご挨拶に伺うなど、様々な場面で気を使い、慣れない環境で業務も遂行するという、いくつもの負担が重なった状態で新生活がスタートします。

そのため、新しい職場に赴任してしばらくたった時…

  • 業務変更により、分からない事・知らないことが多くあり、なかなか質問もしづらく、業務に対して不安感が強まり疲弊するケース
  • ◆昇進により転勤が発生している場合には、責任が大きくなり、周りからのプレッシャーもあり、職場での居場所づくりに強い心理的負担感を抱くケース
  • ◆就業時間・職場のルールの変更に伴い、生活リズムが乱れて体調不良や睡眠がうまく取れないなど身体的な辛さを抱えるケース

…等、仕事面からも心理的・身体的負担を抱え、メンタルの不調の声が上がってきます。

 よく見過ごされがちなのは、ご家族を残して単身赴任された方の心理的負担です。

家族から離れて単身赴任をされる場合、これまでは家族の誰かが担ってくれていた家事をこなさなければならなくなり、慣れない仕事で疲れて帰った後に家事に追われ、苦しみを抱く方もおられます。

そして、ご家族も一緒に異動した場合には、「家族と一緒だから寂しくないね!」と孤独感や寂しさについては心配されないことが多いのですが、パートナーやお子様が新しい環境に慣れず苦しむ姿を目の当たりにして、転勤者が「自分のせいで…」と自責の苦しみを抱えるケースはあります。

転勤者は、本人が望んでの異動もありますが、業務の都合上異動をしている方も多くおられます。本人が望んでの異動でない場合は、負担を乗り越えるモチベーションも上がりにくく、疲労感が強く出る傾向もあるので注意が必要です。

人事労務担当者が転勤者の不調に気づくために

メンタルの不調は、「早期に気付き、早期にケアをする」のが重要な鍵になります。 早期に気付きケアをするために、心にとめておいていただきたいのは、次の3つです

POINT1 元気そうに見えても「ストレスを抱えている」可能性を考慮して関わる

転勤者の中には、周りの目や評価を気にして、「元気・平気」を取り繕ってしまう方もいます。人事労務担当者は「元気そうに見えるから安心!」ではなく、環境変化から生じているだろう負担感をイメージして、優しく見守る姿勢が重要です。

人事労務担当者から職場のルールや社内案内をする場面があれば、「ゆっくり覚えたらよいこと」、「わからないのは当然であること」「不明点や分からないことがあれば遠慮なく声をかけてもらってよいこと」など、転勤者の心理的安全が守られるような語り掛けを意識して関わると良いでしょう。信頼関係づくりを意識して、優しい声掛けを心掛けてみてください。

POINT2 上司・同僚の声に耳を傾ける

令和4年 厚生労働省の労働安全衛生調査によって、メンタル不調を起こした際、相談する相手は「上司」と「同僚」が多い現状がわかりました。上司や同僚は、転勤者の仕事の様子を近くで見ていますし、新しい業務を「指導」をする役割を担うこともあります。人事労務担当者よりも、転勤者に接触回数が多く、会話の回数も多くなるため、転勤者からすると「話しやすさ」も増しています。そして、転勤者のちょっとした弱音や口調から疲れを読み取り、人事労務担当者のところまで声が届く前に、ケアをしてくださっていることも少なくありません。

転勤者が所属する部署の上司や同僚には、転勤者に気にかけていただくよう事前にお伝えしておくことも大切です。転勤後3カ月間は転勤者の勤務の様子について伺う時間をとるなどして、現場の声に耳を傾けることができていると、転勤者の不調に気付きやすくなりますので、心にとめておきましょう。

POINT3 転勤者本人だけでなく、ご家族の状況も気を配る

転勤は、転勤者本人とご家族の状況の両方に気を配る必要があります。

転勤者とご家族が一緒に異動する場合には、お子様の幼稚園や保育所、学校の慣れ具合なども気軽に会話ができるような信頼関係を意識した関わりを心掛けるとよいでしょう。

単身赴任で転勤された場合は、残されたご家族の状況にも視野を広げることをお勧めします。残されたご家族は、大切な家族が突然帰ってこなくなる体験をします。その寂しさや孤独感から不調が出てきてしまうケースも少なくなく、ご家族の不調が深刻化すれば、転勤者も仕事に集中するのが難しくなるケースもあります。

また、勤務地が温かい地域から寒い地域に異動になった方の中には、体調不良に悩む方々も見られます。気温差は、人間の身体に負担を与えますので、転勤者本人だけでなく、ご家族の安定も確認しながら、安心・集中して新しい環境で業務に慣れていける環境を創っていきましょう。

転勤者の心を守るために

転勤者が、安心して新しい環境に慣れ、業務にも慣れていくために、下記2点を心にとめておきましょう。

早期にメンタル不調に気付くこと

必要であれば産業医やカウンセリングなどの支援につなげること

不調に気付くのが遅くなると転勤者の苦しみは深まりますし、休職や退職につながるリスクも出てきてしまいます。産業医やカウンセリングサービスにうまくつなげ、苦しみが深刻化する前に適切にケアができるように心がけましょう。

そして、4月~梅雨時期にかけては、組織体制も変わり、業務上の運用が変わることも多いため、人事労務担当者の皆さんにとってもストレスを感じやすい時期になります。新しい期が始まってしばらくはトラブルも多くなり、人事担当者の皆さんも忙しく過ごされていることと思います。

従業員のメンタルヘルスを考えるのは大切な視点ですが、人事担当者の皆さん自分自身の心を癒す時間を意識的に確保することも非常に大切です。

転勤者の心を守るためにも、人事労務担当者の皆さんのケアも大切だということ忘れないでくださいね。

【参考】 

・日本労働研究雑誌 転勤施策の運用実態と課題-転勤地を決めるのはだれか 武石恵美子

015-030.pdf (jil.go.jp)

・令和4年 労働安全衛生調査(実態調査) 厚生労働省 第14表 ストレスを相談できる人の有無、相談できる相手別労働者割合

r04-46-50_zuhyo.xlsx (live.com)

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