皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です。
先日、〖~人口動態統計を読み解く~ 『ひのえうま』にご用心!2026年の出生数は史上最悪になる??〗というコラムを書かせていただき、日本の出生率が顕著に低下していることや、2026年には過去最悪の数字になるのではないか?といったことをご紹介させていただきました。
この出生率の低下については、実のところ日本だけでなく世界中が直面している社会問題であり、最近では『Demographic Timebomb;人口時限爆弾』という少し物騒な言葉も頻繁に使われるようになってきました。
今回のコラムでは海外にも大きく視野を広げ、出生率の低下についての動向や、どのような対応が取られているのか、などについて詳しく解説をしていきたいと思います。
日本だけではない!イギリスやアメリカなどの国々も直面している『人口時限爆弾』!
“1人の女性が生涯で産む子どもの数”の指標となる数字のことを「合計特殊出生率」といいます。
日本は、最新の統計調査データ(※2023年度)で『1.20』となり、統計調査を開始してから過去最も低い数字であったことを厚生労働省が報告しています。また、東京都だけで見ると『0.99』と1.0を下回る極めて低い数字となっています。
出生率の低下は、日本だけでなくイギリスやアメリカなどの経済先進国でも同様です。
イギリスは、2021年のデータでは『1.55』でしたが、2022年のデータでは『1.49』に低下しています。アメリカも、2022年に『1.62』となり、いずれの国でも過去最低の数字であると報告されています。特にアメリカは、1960年代は『3.5~3.8』という数字だったため、半世紀の間に半分以下にまで低下しているということになります。
そしてなんと、お隣の韓国は『0.72』で世界で最下位という数字。台湾でも『0.87』と1.0を下回り、いずれも過去の統計において最低の数字を記録しています。
人口を維持するためには『2.1』以上の出生率が必要
一つの国の人口における出生と死亡のバランスの割合を「人口置換率」といい、先進国が人口の増加または維持するためには『2.1』以上の出生率が必要であるとされています。『2.1』を下回る場合、国の社会保障や経済に影響が及ぼされるとされ、まさにいま現在、日本が直面している社会問題でもあります。
十数年前から、世界中でこのような人口動態となることは予測されていましたが、迫りくる人口減少に対して、十分な対応も備えも出来なかったことから、人口統計学者や社会学者は『Demographic Timebomb;人口時限爆弾』という言葉を用いて警鐘を鳴らしています。
経済や社会保障が悪化してしまう
出生率の低下によって引き起こされる問題として、経済や社会保障の悪化は非常に深刻です。
出生率が低下していくと、反比例するように高齢化が進んでいきます。高齢化が進むほど年金受給者の数は増加していきますので、それに対する労働力が減少するという問題や、労働力が減少することで経済の成長が見込めなくなるという問題が指摘されています。
出生率を上げるために、さまざまな国で税制優遇や出産休暇の延長、助成金の支給など、育児支援策を充実させることで、子どもを持ちやすくするための政策を打ち出したり、企業単位でもフレックスタイムの導入や男性の育児休暇、託児所の設置などを進めるところも出てきています。
しかしながら、そのような政策は「衰退を遅らせる」ことはできていても「逆転させる」にはいたっていません。例えば、このようなワークライフバランス政策・制度が比較的充実しているスイス(出生率『1.58』)やスウェーデン(出生率『1.67』)などが、その象徴と言えるでしょう。
なぜ出生率が低下してしまうか?
なぜ出生率が低下するのかについては、途上国の動向を見るとその傾向が見えてきます。
少し複雑ですので極めて簡潔に説明をすると、イギリスのNHS(英国国民保健サービス機関)が行った国際的な調査によれば、国としての教育レベルが上がれば上がるほど、特に女性の教育レベルが高くなるほど、女性の労働者人口や女性管理職は増加し、より多くの給与・貯蓄を得て、よりワークライフバランスを重視し、心身ともにより豊かな生活を送ることができるようになります。その結果、近年では、多くの女性が出産・育児に伴うことで生じる自身の収入や生活、プライベート、キャリアへの打撃を避けたいと考えており、子どもを持たない選択や結婚をしない選択に結び付いていると報告しています。また、中南米や東南アジアの経済的に発展しつつある国々で、特にそのような傾向が見られるようになってきているとのことです。
実のところ、日本においても同様の傾向があり、出生率が低下している要因の一つとして、国は女性の社会進出や女性管理職の増加が根底にあるのではないか?と考察しています。
むしろ歓迎されるべきことであるにも関わらず、経済や社会保障という側面ではジレンマを抱える状態となってしまっているわけです。
それは、国の政策によるものなのか、あるいは企業(個人)の制度によるものなのか‥‥。両方ということもあるかもしれません。
次回のコラムPart.➁では、出生率の低下と少子高齢化という社会問題を背景に、アジアやヨーロッパなど、諸外国の事例を紹介していきたいと思います。
参考:
- 「少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?」泉 房穂、ひろゆき KADOKAWA
- 「人口減少・少子高齢化社会の政策課題」清家 篤、西脇 修 中央経済社
- 「公衆衛生がみえる 2024-2025」編集. 医療情報科学研究所 メディック メディア
- ZUU online|新時代を生きるための経済金融メディア
ほか