ピンデミックってなに?!日本でも要注意!!(‥‥と、ちょこっとだけ面白い昆虫の生殖の話)

皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です。

盛り上がりを見せたパリオリンピック2024も閉幕し、8月29日からはいよいよパラリンピックがスタートしますが、世界中の人々が集まる「平和の祭典」の裏で、パリを含めたフランスの各大都市ではある害虫の発生が猛威を奮っていることをご存知でしょうか?

今回のコラムでは、近年日本でも被害が多数報告されている、ある『害虫』について解説をしていきたいと思います。

南京虫が発生?!フランス政府が対応に追われる

その害虫とは、刺されると猛烈なかゆみをもたらす『トコジラミ、学名:cimex lectularius』。

南京虫(ナンキンムシ)という名称でも呼ばれますが、繁殖力が非常に高く、暖かくなる今の時期には特に増えるとも言われています。

「シラミ」というと、アタマジラミやケジラミを思い付く方も多いかと思います。特に、ケジラミはヒトの陰毛に寄生するため、性行為で感染することから生殖医療の分野でもしばしば話題に上ることがありますが、実はトコジラミは、アタマジラミやケジラミなどのシラミの仲間では無く「カメムシ」と同じグループに属します。ですので、触れたり潰したりすると、カメムシと同じようなくさ~い臭いを発します。

フランスでの事の発端は、パリ市内の高校がトコジラミの被害に合ったことからはじまります。その後、フランス各地の映画館、電車、病院、学校でもトコジラミの目撃情報が相次いで報告されるようになりました。

中には、ダニをトコジラミと見誤るなどの間違った情報がSNS上を行き交うこともありましたが、フランス全土の害虫駆除業者が、トコジラミ駆除の要請が大幅に増加していると報告しており、フランス政府が対応に追われる事態に発展しています。

日本を含め世界中で被害が増加している

トコジラミの被害は、パリだけでなく日本でも同様に広がりを見せつつあります。

殺虫剤を販売するアース製薬が発表したデータでは、2024年の3月時点でトコジラミに関する相談件数が昨年比+1217%(10倍以上)となっていると報告しています。

またお隣の国、韓国でもトコジラミ被害の増加が報告されており、韓国政府と疾病管理庁が観光客向けの注意喚起をHPなどで行っています。トコジラミの不安が広がっていることで韓国国内では、韓国語でトコジラミを意味する「ピンデ」と、疾病の大流行を意味する「パンデミック」を合わせた『ピンデミック(빈대믹)』という造語も登場したほか、「オンライン・トコジラミ相談センター」が開設され、相談があった場合、保健所が主導して消毒や駆除を行うシステムを稼働させています。ソウル市の発表によるとすでに300件近い問い合わせがあったとしています。

(※ちなみに、빈대믹と検索すると虫が苦手という人にはかなりショッキングな画像や映像がたくさん出てきますのでご注意を!)

トコジラミの被害が増加した理由としていくつかの要因が考えられていますが、最も重要なポイントとして挙げられるのが、アフターコロナによるグローバル化です。インバウンド需要が高まり、海外から観光に訪れる外国人が増加しただけでなく、大型のコンテナを使用した貿易なども盛んになったことで、海外からの流入経路が増えていると指摘されています。その一方で、温暖化や環境の変化といった要因は、今のところ除外する見方があります。

今回、フランスで被害が多数報告されたのも、パリオリンピックに伴い世界中から観光客が増加したことが要因の一つであると考えられています。

殺虫剤が効かない?!“スーパートコジラミ”とは?

第2次世界大戦の後、トコジラミは有機塩素系殺虫剤、いわゆる“DDT散布”によってその個体数を大幅に減らしました。その後、DDTなどの化学薬品は人体への影響を理由に使用が禁止されるようになりましたが、人体に影響の少ない殺虫剤が開発され駆除は進んでいきました。

しかしながら、近年、このような殺虫剤の効かない、抵抗力のはるかに強い“スーパートコジラミ”が猛威を奮っています。

というのも、現代に生き残っているトコジラミの個体は、DDT散布や殺虫剤の攻撃から生き延びた個体を先祖に持つ、いわば遺伝的にこのような化学薬品に対して抵抗力を持つ個体です。

近年、このような殺虫剤に対して抵抗力の強い“スーパートコジラミ”と呼ばれる個体が猛威を奮っており、日本でも“スーパートコジラミ”による被害が報告されています。

トコジラミは珍しい生殖・繁殖様式を持つ

そんなトコジラミですが、昆虫学・生物学の分野では非常に興味深い、面白い生殖・繁殖様式を持つということでも知られています。

というのも、トコジラミは『Traumatic Insemination』という珍しい受精方法を行う数少ない昆虫種の一種でもあります。

Traumatic Insemination、直訳するとトラウマ的な授精(《医学》外傷性の、《心理学》心理的・精神的に傷が付いた)、となりますが、昆虫学・生物学の分野では「外傷性受精」と呼ばれる珍しい生殖・繁殖様式のことを指します。

オスのトコジラミは、トゲのある針のような生殖器で、メスの腹部あたりを突き刺します。メスの体にオスの生殖器が入ると精子が放出され、精子はメスの体の中で血流に乗って生殖器官へと移動します。

オスのトコジラミは誰彼構わず交尾を行うため、オスがオスに生殖器を突き刺すことも、似たような別種の虫に突き刺すこともあります。また、例えば、オス(A)がオス(B)に生殖器を突き刺し精子を放出したあと、オス(B)がメスと交尾を行うと、オス(B)の精子と、オス(B)の体内にあるオス(A)の両方の精子がメスに注入されるということも知られています。

よく「オスは好き放題に交尾するため、メスの頭も突き刺す」ということが言われたりしますが、実際にはほとんど認められないようです。

このような珍しい生殖・繁殖様式は、個体が遺伝子を残すための特性であると考えられていますが、メスにダメージを与える生殖・繁殖様式でもあることから、まだまだ解明されていないことも多いようです。

トコジラミ対策をするには

現在、トコジラミの発生が報告されている場所の多くは、ホテルや電車内、空港など海外の方が頻繁に利用される場所です。

特にホテルでは、5つ星のホテルやリゾートでも発見が報告されていて、衛生管理の良し悪しはほとんど関係無く発生することが指摘されています。

トコジラミは、スーツケースの隅や服の折り目など、個人の荷物に紛れて移動するため、ホテルや公共機関を利用した後には、自分の身体に付いていないことを確認することが重要です。

またホテルでは、ベッドのマットレスの溝やヘッドボード、ソファー、椅子などに潜んでいることが多いため、入室後は荷ほどきをする前にチェックをすることも重要です。

夏休みも中盤に入り、長期休暇の最後に旅行を楽しむ予定を立てている方もいらっしゃるかもしれませんが、是非トコジラミには注意をしていただけたらと思います。

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