<取材>女性活躍推進からダイバーシティ推進へ 多様性を受け入れみんなが活きる両立支援への取り組みとは −株式会社アイネット
認定取得への取り組みシリーズ

今回は、横浜市を拠点に、金融、小売り・流通、石油、製造、宇宙、医療など多種多様な業界へ業務ソリューションを提供する「株式会社アイネット」を取材しました。

子育てと仕事の両立支援への取り組みやプラチナくるみん認定取得のポイント、地域への関わり、そして取り組みの軸となるダイバーシティ推進について、人事部 ダイバーシティ推進室の小木曽さん、猪俣さん、ニラさんにお話を伺いました。

社員のニーズを取り入れた実用的な育児との両立支援のための取り組み

― まずは貴社の事業内容についてお聞かせください

システムの企画・開発から運用・監視、印刷・封入封緘、先進のクラウドコンピューティングに至るまで、金融、小売・流通、石油、製造、医療など多様な業界に向けて様々なニーズに最適なソリューションをワンストップで提供しています。DX、クラウド、FinTech、IoT、宇宙、データサイエンス等幅広く手がけています。

― IT企業というと男性が多いイメージですが、年齢の分布や現在の男女比はどのようになっていますか?

小木曽さん:平均年齢は40歳くらいですが、構成で言うと30代は少なく、その前後の20代と40、50代が多くなっています。30代が少ないのは、ちょうど採用を控えていた時期に当たり、新規の採用も現在の1/3ほどの人数に抑えられていました。

女性の比率は全体で見ると約3割ですが、最近の新卒採用では約4割は女性を採用しています。10年以上前は女性の応募自体が少なかったのですが、徐々に女性の応募が増えてきて、実際に現在の20代の女性社員の比率は高くなっています。

男女に関わらず20〜30代の若い層にこれからどんどん活躍してほしいと思っています。

―「プラチナくるみん」の認定を取得されたと伺っています。取得にあたって特に注力して取り組んでいることをお聞かせください。

小木曽さん:プラチナくるみんの認定取得は、これまでの積み重ねの結果だと思っています。

女性社員が少しずつ増えてくる中、女性の働きやすさへの取り組みを継続して行ってきて、特に育児との両立の部分には力を入れています。

具体的な制度でいうと、当社の短時間勤務制度は、小学3年生までのお子さんがいる社員が対象となる運用を行っています。さらに最近では、時差出勤制度を整備し、育児など家庭の事情がある社員でも、勤務時間を短縮するのではなく、早く出勤して早く退勤する時差によるフルタイム勤務をしたいという社員のニーズに対応できています。

猪俣さん:プラチナくるみんの評価指標でいうと、特に時差出勤制度の部分が評価されました。

認定取得のために制度を整えたわけではなく、これまでの取り組みを見直して、不足している取り組みを少し補って申し込んだという経緯です。

小木曽さん:あとは、「育児復帰支援コミュニケーションシート」の運用の影響も大きいと感じています。

このシートは、産休や育休の対象社員と、その上司がコミュニケーションをとるためのものです。妊娠の報告、出産時期や産休・育休の期間、復帰予定の時期などこのシートを使ってやり取りをしています。

猪俣さん:このシートは、人事と、当事者たちが意見やアイデアを出し合いながらブラッシュアップされてきたのですごく使いやすいです。会社の仕組みとして運用されているので、気兼ねなく利用できますし、私自身、このシートを利用して、復帰までスムーズにやり取りできたと思っています。

具体的には、「産前産後休暇・育児休暇を取ろうと思った時」「産休に入る直前」「休職明けの直前」「休職を明けてから2〜3ヶ月」の4つのフェーズに分けて記入できるようになっています。

このシートに沿うと、連絡や報告のタイミングに迷うことなく、上司は聞きたいことを聞けて、当事者は言いたいことを言える、双方で状況や認識の齟齬なくコミュニケーションをとることができます。

小木曽さん:制度や仕組みをそれぞれ挙げるとキリがないですが、過去からの積み重ねで、さまざまな施策を継続してきた点が、プラチナくるみんの取得につながったと思っています。 特に、社員から出たアイデアを参考に制度を考えることで、社員のニーズにあった制度や仕組みにつながっていると感じています。

猪俣さん:当事者のニーズに沿って施策を実施してきたというのがポイントなのかなと思っています。

感謝・継続・健康の「3K」で、働きやすい環境づくり

―お話を伺う中で、女性活躍を軸に、役員や人事、女性委員会が一丸となって働きやすさに向き合っていらっしゃると感じます。またダイバーシティ推進室のほかにも、ウェルビーイング推進室などそれぞれ組織されていて、働きやすい環境づくりへの想いを感じていますが、そもそもの始まりの経緯などお聞かせください

小木曽さん:一人一人が活躍できる職場づくりや、人をどう活かすかという部分への取り組みは、創業者の影響が大きいと思います。当社は53年前に立ち上がった会社ですが、創業当時から人を大事にする経営をしてきました。人事制度の充実やダイバーシティ推進室の設置、健康経営への取り組みに対して経営層が後押ししてくれていると感じています。

創業者が常に語っていた「感謝・継続・健康」の3Kは経営の基盤であり、社員や同僚への感謝の気持ちを持つことが重要だという考え方が浸透しています。

―なるほど。先ほども女性の応募者が増えてきているというお話にあったように、これまでの取り組みの結果として女性が活躍できそうだというイメージが定着してきていると言えそうですね

小木曽さん:そうですね。ITの仕事やシステム開発は性別を問わず誰でもできる仕事です。これが、健康経営や女性の活躍推進といった取り組みが進展しやすい理由だと思います。

15〜20年前は、業界全体で残業が常態化し、きたない・きつい・くるしいの「3K」が当たり前であったそうです。創業者はネガティブな3Kではなく、当社では感謝・継続・健康の「3K」が大事だということで、これを基盤に働きやすい環境づくりに取り組んできました。

誰も取りこぼさない、見逃さない。ダイバーシティへの熱い想いと取り組み

―現在ダイバーシティ推進室で特に注力して取り組んでいる施策はありますか

猪俣さん:当社のダイバーシティは、女性委員会から始まりました。女性委員会とは、女性の働きやすさを支援する目的で2014年に発足し、ダイバーシティ推進室の礎でもあった組織です。一番多いマイノリティである女性を支援するという根底の思いがあり、女性の活躍支援は常に大きな柱として位置づけられています。

現在、特に取り組んでいるのは、育児との両立支援、男性育休の推進です。

法改正もあり、男性の意識も変わってきて、特に20代の男性社員と話すと育児に積極的に参画しようという気持ちを持っている社員も多く、男女関わらず育児との両立支援という部分は注力しています。

私は2022年に異動してきたのですが、育児のガイドブックをつくることが最初のミッションでした。先日ようやく完成して公開をしたところです。男性育休に関するセミナーを開催したり、育児との両立をしている当事者の声やノウハウを吸い上げながらガイドブックを作ったり、社内で共有・推進を行うなど周知や浸透に取り組んでいます。

育児と仕事の両立ガイドブック 「NEUVOLA」

女性の活躍支援は重要な柱であるとは言え、100%の女性活躍が実現した後ではなく、男性やLGBTQ、他のマイノリティを含む社員の支援も同時に進めることが重要だと考えています。

多様性を活かしながら活躍できる環境づくりをすること、多様性に配慮した会社であることが伝わることで、働く人みなさんへのエンパワーメントも一層進むのではないかと思っています。

ニラさん:そうですね。そもそも猪俣さんと2人で担当を分けている理由は、どこも見逃さないようにとの想いからです。私は、外国人の活躍とシニアの活躍に力を入れています。

シニア活躍については、シニアの社員に対するキャリアデザイン研修というものを毎年行っています。定年の年齢もどんどん上がってきている中で、モチベーションを上げて働き続けるために、キャリアのどういった点に注力していくべきか、そういった意識づけをできるように啓発を行っています。

シニアはモチベーションが低いというアンコンシャスバイアスが世の中にありますが、本当にそうだろうかと私自身が疑問に感じることあります。その疑問を解消する工夫として、上司から期待メッセージシートをいただき、シニア社員一人ひとりの存在意義を再確認できるプログラムを直近で行っていました。コミュニケーションが1つでも増えればお互いのモヤモヤしている気持ちが多少解消できて、より良い職場環境になると考えています。

外国人活躍に関しては、私自身が当事者であるからこそ、当事者意識が一方に偏らないように配慮をしています。

外国人の受け入れは、通常の採用より負担が大きいと思っています。外国人自身も慣れない言語で努力していることを理解していますが、一方で、受け入れ側の負担も大きいと感じます。外国人の支援はもちろん重要ですが、受け入れ側のアフターフォロープログラムの整備にも注力しているところです。

―ありがとうございます。それぞれが役割、目標を持たれて誰も取りこぼさない!という想いがすごく伝わってきました。

猪俣さん:そうですね、誰も見逃さないということが大事だと思います。一つのマイノリティだけに焦点をあてると、不公平感や取りこぼされたと感じる人が必ず出てきます。そのような人たちに対しても、全員を大切にしたいという気持ちを常に示したいと考えています。

社内への発信の際も、男女どちらかに偏った見え方聞こえ方にならないよう、みなさんを見ていますよ、みなさんが対象ですよという部分は気をつけて発信するようにはしています。

多様性を受け入れる仕組みづくり『i Dear Post』とキャリアチャレンジ

―社内に『i Dear Post(アイデアポスト)』という社長直結の目安箱があると伺いましたがこちらの運用についてお聞かせください

猪俣さん:はい、この『i Dear Post』は、会社を良くするようなアイデアや意見を投稿すれば、社長に届きます、という仕組みです。社名のアイネットの「i」と、私を意味する「I」をかけて「i Dear」です。

以前は「ダイバーシティポスト」という名前で、ダイバーシティに関わるアイデアや意見を集約する目的で運用していました。とはいえ、ダイバーシティに関わらずいろいろな投稿がされていたため、領域を限らず発展させた形で、昨年の夏(2023年の夏)頃から『i Dear Post』として運用しています。

社員が1000人以上いる中で、社長と1対1で話す機会のないメンバーも多いため、うまくアイデアを吸い上げたいという意図と期待を持って運用しています。

―猪俣さんご自身は、営業業務の現場から自ら挙手をして、今このダイバーシティ推進室にいらっしゃると伺いましたが、それまでに何か課題感をお持ちだったのでしょうか

猪俣さん:私自身にとっては、働きやすい会社だと思っていました。ただ、社内でいろいろな人と関わる中で、自分が働きやすいと思っていても全員がそう思っているとは限らないということは感じていました。

当社にはキャリアチャレンジという制度があります。自分が橋渡しとなり、働きやすさを伝え、不足している部分は一緒に変えていくことで、この会社がもっと働きやすくなると考え、内部から変えてみようとキャリアチャレンジを利用して異動しました。

―キャリアチャレンジというのは、手を挙げれば誰でも異動できるという仕組みですか

小木曽さん:キャリアチャレンジは、新しい取り組みを始める部署や不足リソースを拡充する必要がある部署が、社内で部門を超えて希望者を募る仕組みです。希望者は、社内で面接などの選考を経て、合格したらそのまま異動になります。

この制度の特徴は、所属部門の上司や管理者に異動の希望を伝える必要がないことです。これにより、送り出す側は引き止め等を行うことはできないため人材リソースとしてマイナスになってしまいますが、当事者がこの異動がなければ退職してしまったリスクを考えると、会社全体としてはプラスであると考え、前向きに取り組んでいます。各部門が自部門の仕事や職場環境の魅力をより良いものにする一助にもなることにも期待しています。

―キャリアを続ける上での選択肢の一つになるのはいいですね

猪俣さん:私自身もそうですが、異動した人の多くは元の部署に居づらいとか不満があるというネガティブな理由からではなく、新しいことをしたい、こうすればもっと会社に貢献できるというポジティブな動機から異動しています。元の部署でも良好な人間関係を築いていた人が活躍できているのかなとは感じます。

―キャリアチャレンジという制度は、個人のチャレンジを支えるだけでなく、部門を超えたチャレンジを通じて多様な視点を取り入れやすい仕組みになっていると感じます

地域との関わり、地域への貢献を社員のウェルビーイングにつなげる

― 社内だけではなく、地域の女性活躍も含めて、働くママを応援するための活動をされていると伺いました。地域との関わり、地域貢献への取り組みをお聞かせください

小木曽さん:そうですね。横浜市との共同プロジェクトとして、「働くママ応援し隊 (https://kosodate.inet.co.jp/)」という子育て支援情報サイトを開発・運用しています。

このサイトは、子育てをしながら働くアイネットの社員からの意見を基に、横浜市のオープンデータを利用した保育施設検索サイトです。「わかりやすい」「検索しやすい」「情報が多い」と好評で、社員の意見やアイデアが活かされたという一例かなと思っています。

猪俣さん:その他にも地域との連携という意味では、大学や学術機関との連携や、神奈川県のIT企業との連携などもあります。

地域との関わりや地域への貢献は、創業者の理念や想いに通じています。社内でいくらダイバーシティが進んでいっても、社員は社会の中で生きています。その社会を改善しなければ、本当の意味で社員が活き活きと生活し、働くことは難しいと考えています。

地域にもしっかりと発信をしていくことで、社員のウェルビーイングが保たれていくのかなという思いで、地域の貢献というのは意識をしているところですし、もっと社会と関わって活動していきたいなと思っています。

小木曽さん:地域貢献と社会貢献の観点から、障がい者雇用の促進は当社の最初のダイバーシティ推進への取り組みでした。

当社では、15年前に、アイネットデータサービスという会社を特例子会社として作りました。その会社で障がい者の方を雇用していくという取り組みです。障がい者を、正社員として雇う、定年まで雇うという覚悟での事業になります。

一般的に、障がい者を雇用しても、掃除や農業をさせるということが多いのですが、アイネットデータサービスでは、ITに関わる仕事として、データ入力や紙媒体のデータ化などの作業に携わります。現在、30人近く在籍していて、今後ももっと広げていく事業です。

―社内でも地域の中でも、誰も取りこぼさないぞという想いと、その中でそれぞれが形になり積み重なっていますね

猪俣さん:欲張りなチームです(笑)

「両立支援」をテーマに誰もが活き活きと働き続ける環境づくりを目指して

―最後に、今後の展望や今後より一層取り組んでいきたいという点をお伺いしたいのですがいかがでしょうか

小木曽さん:両立支援というテーマをもっと進めていきたいと思っています。

介護というテーマにまだ十分に取り組めていないと感じています。社員の年齢層としては40代、50代が多いため、今後、介護の問題は避けて通れないと考えています。

あとは、子育てとの両立支援についても、男性側の支援を今後より推進できればと考えています。

最近、男性の育児休暇の取得は義務にはしましたが、仕事や業務の兼ね合いで取得できないという人もいて、まだ実際の利用に関しては課題感があります。当事者への取得推進はもちろん、管理職者や周囲へのフォローもしながら進めていきたいと思っています。

猪俣さん:今は働くだけの猛烈社員ばかりの時代ではなく、何かしらの両立をしながら働いている方がほとんどだと思います。生理や不妊治療との両立も含め、様々な両立支援にはもっと力を入れていきたいなと思っています。

小木曽さん: そうですね。テーマは絞る必要はないと思いますが、誰もが働き続けられる環境を整えるという意味では、とにかく両立支援というものを進めていくべきかなと思っています。

―社内にとどまらず、地域や社会への関わりの中で、多様化する社員一人ひとりが能力を発揮できる環境づくりに取り組まれ、何よりお三方の誰も取りこぼさないという熱い思いをひしひしと感じられるインタビューでした。本日はありがとうございました!


■ 会社情報

inet
会社名株式会社アイネット
所在地神奈川県横浜市
事業内容情報処理サービス
システム開発サービス
システム機器販売
設立1971年4月22日
従業員数連結 1,774名 単独1,013名(2024年4月1日現在)
公式ページhttps://www.inet.co.jp/