長く続いた暑さもようやく落ち着いてきましたね。
寒くなってくると、トイレに行く回数が増えたと感じることはありませんか?
1日8回以上トイレに行くことを頻尿といい、夜間に1回でも尿意で目覚める場合は夜間頻尿といわれます。(回数が少なくても日常生活に支障を感じる場合は頻尿とされます。)
寒い時期になると増える頻尿の原因の大半は「冷え」によるものだと言われています。
暑い時期は、身体のなかの余分な水分が汗からも発散されますが、寒さで汗をかくことが少なくなる冬はその分尿量が増えるため、トイレの回数が増えることになります。また寒さの刺激が膀胱の筋肉をキュッと収縮させ、膀胱内に貯めておける容量が少なくなったり、尿意をもたらす神経を刺激することでトイレの回数が増えたりします。寒い季節はトイレが近くなる気がするのは気のせいではないのですね。
そのなかでも今回は夜間頻尿についてのお話です。
夜間頻尿とは
夜間頻尿とは夜寝ている間に1回以上トイレに起きることをいいます。
加齢に伴い増えることが多く、60代以上で夜中にトイレに起きている割合は7~8割とされています。睡眠途中で起きることによる睡眠の質の低下(熟睡感が得られにくく寝た気がしない)、生活の質の低下(昼間の眠気)などにつながることが多いです。その外にも日中の集中力・活力の低下、活動への参加意欲の低下、トイレのことが気になって外出をひかえることによる筋力低下などの弊害もあります。
また夜間頻尿に起きる人は転倒のリスクが高く、とある研究では夜間に2回以上トイレに行く人は転倒による骨折の頻度が高くなることが報告されています。(Nakagawa et al,J Urol 184:1413-18,2010)
一般的に夜2回以上トイレに起きるようになると生活の質の低下を自覚しやすく、治療を開始することが多いです。ただし夜間お手洗いに行くために目が覚めても、ご本人がとくに困っていなくて生活や睡眠の質に支障がない場合は治療の必要はありません。
夜間頻尿の原因
夜間頻尿につながる生活習慣や要因
1.水分摂取量が多い
水分を必要以上に摂ると尿量が増え、昼間に排泄しきれなかった水分を夜間に排泄するため夜間頻尿に繋がります。例えば習慣的に水分を多く摂取している、利尿作用のある薬を内服している、糖尿病がある場合などは水分を多く摂取する傾向があります。
2.塩分やカリウムの摂取量が多い
塩分の多い食事を摂るとのどが渇くため飲水量が多くなり、トイレの回数が増えます。また野菜や果物に多く含まれているカリウムは利尿効果を高める働きがあるためカリウムの摂取量が多いときも尿量増加につながります。
3.加齢
私たちの身体のなかでは『抗利尿ホルモン』というホルモンが分泌されています。抗利尿ホルモンは文字通り尿量を減らすホルモンで、夜間に多く分泌され尿中の水分を減らして尿を濃縮します。そのため夜間は長時間トイレにいかなくても安眠できるのです。夜しっかり寝て、朝トイレに行くと色の濃い尿が出たことはありませんか?これは抗利尿ホルモンが尿を濃縮して尿量を制限してくれているおかげなのです。
加齢に伴い夜間の抗利尿ホルモンの分泌量が減ることで尿量が増えて夜間頻尿になります。また下半身の筋力低下や心機能や腎機能が低下している高齢者の方は、摂取した水分が下半身にたまりやすく浮腫みやすいです。これが寝るときに横になるとふくらはぎにあった水分が血管内に戻り、その水分が夜間に尿となり膀胱に蓄えられるため尿量が増え夜中に何度も起きるようになります。
夜間頻尿を引き起こす疾患
夜間頻尿は症状であり病気ではありません。けれど何らかの病気のサインであることもあります。夜間頻尿の原因となる代表的は疾患をあげてみます。
・前立腺肥大症(男性)
中年以上の男性に多く、肥大した前立腺が尿道を圧迫し排尿しづらくなります。排尿しきれず残尿の量が増え、夜間だけではなく日中も頻尿となります。
・過活動膀胱
尿が膀胱に溜まり一定の量以上になると尿意が起こります。膀胱が過敏になってしまい尿が少ししか溜まっていなくても膀胱が勝手に収縮して尿意をもよおす状態のことを過活動膀胱といいます。その結果、急な尿意でトイレに駆け込むことになりますが適切な治療で改善できます。
・子宮筋腫
子宮に良性の腫瘍ができる30~40代の女性に多い疾患です。筋腫が大きくなると膀胱が圧迫され頻尿になることがあります。
・糖尿病
高血糖の状態が続くと尿量が増加し頻尿になります。頻回にトイレにいくことで水分不足になり、水分を摂りさらに頻尿になるという悪循環を起こしやすいです。糖尿病では夜間頻尿を起こしやすいといわれているため、最近夜中にトイレに起きることが多いなと思う場合は注意してください。
・その他
高血圧・・高血圧の方は夜間尿量が増えるため夜間頻尿となります。
心不全・・心不全に伴う心機能の低下などがある場合、日中むくみなどで下半身に溜まった水分が寝る時に横になると腎臓への血流量が増えて夜間頻尿になります。
治療
夜間頻尿のせいで睡眠不足になるなど日常生活に支障が出ている場合は医療機関を受診することをおすすめします。
自分でできるケア
・就寝前水分を摂りすぎない
特に利尿作用のある飲み物を控える。コーヒー、紅茶、緑茶などカフェインを含むものは利尿作用があり尿量が増加するだけではなく覚醒作用もあり、眠りを浅くします。夕方以降は控えましょう。ただ、控えすぎも脱水や脳梗塞の発症の原因になることがあります。持病があり医師から水分摂取を勧められている方は飲水量について医師に相談してみましょう。
・適度な運動
浮腫みと血行の改善のために寝る3時間前に30分ほどの軽い運動がおすすめです(掃除などでOK)。昼間に貯留した水分を血管内に戻し、汗として外に出しましょう。下半身の浮腫みの自覚がある場合は、昼間に弾性ストッキングと呼ばれるきつめの靴下をはく、寝る前にベッドで足上げをすることも効果的です。
・あたたかくする
部屋の温度をあげて、外出のときはカイロや保温性のある衣服を身に着けましょう。膀胱をあたためると血流が良くなり膀胱が広がりやすくなります。
・食生活の見直し
濃い味や塩からいものはのどが渇いて水分摂取量が増えるだけではなく、体内のナトリウムを排泄するために尿量が増えてしまいます。
おわりに
病気や器質的な異常がない場合、寒い時期に起きる頻尿の原因は大半が「冷え」によるものだと言われています。冷たいものの摂りすぎに注意し食事や飲み物はできるだけ温かいものをとりましょう。軽めの運動をしたりゆっくり湯船につかったり、保温性の高い服をえらぶなど冷え対策に努めてください。
これから少しずつ寒さが本格的になってきます。
冷えは身体の免疫力や新陳代謝を低下させ、身体にとっていいことはありません。あたたかかくして、冬を乗り切ってくださいね。