はじめに
ヒトメタニューモウイルス感染症が中国で感染拡大している、という報道がありました。「何だか聞いたことのない名前のウイルスだな」、「またコロナウイルスの時のようになったらどうしよう」、などといった不安を感じた方も多いのではないでしょうか。ですがこのヒトメタニューモウイルス感染症は、決して新しい感染症ではありませんので、過度に不安を感じる必要はありません。
そこで今回は、ヒトメタニューモウイルス感染症について解説していきます。
ヒトメタニューモウイルスとは
ヒトメタニューモウイルス(Human metapneumovirus, hMPV)は、呼吸器感染症を引き起こすウイルスの一種で、2001年にオランダの研究者によって初めて発見されました。2001年より前から存在していたウイルスですが、技術の進歩により2001年になってようやく、ウイルスとして検査で検出されるようになったのです。
ヒトメタニューモウイルスはパラミクソウイルス科のメタニューモウイルス属で、RSウイルスと類似しています。このため、感染した場合の症状もRSウイルス感染症ととてもよく似ています。
2020年2月に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行後、日本も含め世界では様々な感染症の発生率が著しく低下しました。しかし2022年から徐々にCOVID-19の感染対策を緩和し始めたことで、潜在的な感染症の拡大が危惧されています。実際に日本でも、2022年以降ヒトメタニューモウイルス感染症の感染が増えています。
出典 国立感染症研究所 2021年 2022年 週別診断名別Human metapneumovirus分離・検出報告数
ヒトメタニューモウイルスに感染すると、ヒトメタニューモウイルス感染症を引き起こします。このヒトメタニューモウイルス感染症は、ウイルス性の呼吸器感染症の中で小児では5~10%,成人では2~4%程度と推測されており、特に小児、高齢者、および免疫力が低下した人などが感染しやすいです。生後6か月ごろから感染が始まり、2歳までに50%、5歳までに75%、10歳までにはほとんどの人が感染すると言われています。
これらの情報からも分かるように、決して珍しい未知のウイルス、というわけではありません。
感染経路
- 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみで、飛散した空気中のウイルスを吸い込むことで感染してしまう。
- 接触感染:ウイルスが付着したものに直接触れることで、目や口を介して感染してしまう。
症状
感染者の多くに軽い風邪のような症状(鼻水、咳、発熱、咽頭痛など)が見られますが、稀に重症化することもあります。子どもや高齢者、免疫力の低下している人、また元々呼吸器疾患のある方は注意が必要です。重症化した場合は、喘息症状の悪化、気管支炎や肺炎、また中耳炎を起こすこともあります。
流行時期
ヒトメタニューモウイルス感染症は1年中感染が確認されていますが、特に3月~6月に増加します。
出典 国立感染症研究所 2024年 週別診断名別Human metapneumovirus分離・検出報告数
また1回の感染では免疫が獲得できないため、複数回感染することもありますが、年齢が上がるにつれて徐々に免疫がついていきます。
検査
ヒトメタニューモウイルス感染症の検査は、インフルエンザの検査のように綿棒で鼻の奥の粘液をぬぐい取る方法で行います。6歳未満のみ保険が適用されます。
治療
ウイルスそのものを抑える治療はないため、対症療法がメインとなります。上記のような風邪症状のみの場合は、自宅安静により自然軽快する場合がほとんどです。ただし、気管支炎や肺炎、喘息の悪化など重篤化してしまった場合は、もちろん入院加療などが必要となることもあります。このため、乳幼児のいる家庭、免疫力の低下している方はより注意が必要です。
感染対策
ヒトメタニューモウイルスに有効なワクチンは、ありません。感染経路は飛沫感染・接触感染であるため、
感染を防ぐには基本的な感染予防対策(手洗いや手指消毒、マスクの着用など)が重要となります。
またアルコール消毒が有効ですので、家庭内での感染を防ぐ必要のある場合は、アルコール消毒を活用し、おもちゃやドアノブなどの消毒をしましょう。タオルなどの洗面具や食器から感染することもあるため、家庭内では個人ごとに使い分けることをお薦めします。
おわりに
いかがでしたでしょうか。ヒトメタニューモウイルス感染症は、通常の感染対策を行っていれば、過度に不安を感じる必要はない感染症です。通常の風邪、インフルエンザの対策をするのと同じように、基本的な感染予防対策を心がけてください。
またヒトメタニューモウイルス感染症は、冬ではなく、4月から6月に感染が増える、というところがポイントです。インフルエンザなどが心配で冬の間は十分に気を付けていたけれど、「春になったしもう大丈夫かな」と思ってしまう方も多いかと思います。ぜひこの機会に、一年を通じてしっかり手洗い、うがいを徹底する習慣をつけましょう。
参考