2026年4月から何が変わる?治療と仕事の両立支援で企業が今から整えたいこと

目次

はじめに

がんや脳卒中、心疾患、糖尿病、難病、メンタルヘルス不調など、治療や通院を続けながら働く人は少なくありません。医療の進歩により、かつては入院が中心だった治療も通院で継続できるようになり、治療と仕事の両立は、特別な一部の人だけの課題ではなく、多くの職場に関わるテーマになっています。

出典:厚生労働省「令和7年版 厚生労働白書」図表1-7-2(国民生活基礎調査等に基づく)

こうした背景のもと、2026年4月1日から、労働施策総合推進法に基づき、職場における治療と就業の両立支援に関する取組が、事業主の努力義務となります。厚生労働省はこれに先立ち、2026年2月10日付で『治療と就業の両立支援指針』を告示・公表しました。

これからの企業にとって、治療を抱える社員を支えることは、本人への配慮にとどまりません。人材の流出を防ぎ、職場全体の安心感を高め、組織の持続可能性を支える経営課題でもあります。そこで今回は、人事・労務・健康経営の担当者に向けて、この制度変更が何を意味するのか、そして企業が今から何を整えておくべきかを整理します。

2026年4月の「努力義務化」が意味するもの

「努力義務」と聞くと、「義務ではないなら急がなくてもよいのでは」と受け取られがちです。ですが、実務上の意味は決して小さくありません。今回の改正は、これまで本人の頑張りや直属上司の理解に依存しがちだった両立支援を、企業として整えるべきテーマへと位置づけ直したものだからです。厚生労働省の指針では、事業主が講ずべき措置の適切かつ有効な実施に必要な事項が示されています。

重要なのは、会社が一方的に「働ける・働けない」を判断するのではなく、本人の就業継続の希望や配慮の要望を聞き、主治医や産業医などの意見も踏まえながら、できる限り就業の機会を失わせないように考える姿勢が明示された点です。疾病にかかったことだけを理由に安易に就業を禁止するのではなく、必要な措置を講じることに留意すべきだという考え方が示されています。

つまり今回問われているのは、特別な制度を新しく作ることそのものではありません。相談があったときに適切につなぎ、必要な配慮を検討し、職場で運用できる流れを社内に持っているかどうかです。善意に頼る個別対応ではなく、再現性のある組織の仕組みに変えていくことが、努力義務化の本質だといえます。

対象は一部の病気だけではない

両立支援というと、がんや脳卒中のような重い病気を思い浮かべる人が多いかもしれません。厚生労働省の「治療と仕事の両立支援ナビ」では、主要な対象例として、がん、脳卒中、肝疾患、難病、心疾患、糖尿病などに関する資料が示されています。

一方で、企業の実務で向き合う課題はそれだけに限りません。厚生労働省では、不妊治療についても仕事との両立支援情報を別途整理しており、さらに、不妊治療に加え、月経や更年期症状を含む女性の健康課題についても、企業が就業との両立に配慮する重要性が高まっています。つまり、実務上はより幅広い健康課題への対応が求められているといえます。

そのため企業が整えるべきなのは、病名ごとに細かく別制度をつくることではなく、通院頻度、体調の波、治療の副作用、勤務時間の制約など、就業上の支障に応じて柔軟に対応できる共通の仕組みです。誰が相談を受け、何を整理し、誰と連携し、どのような配慮を検討するのか。その流れを社内で明確にしておくことが重要です。

相談の「入口」を設計する

人事担当者が最も困りやすいのは、問題が深刻化してから相談が来ることです。本人が「迷惑をかけたくない」「評価に響くのではないか」「何を伝えればよいのかわからない」と抱え込み、限界に近づいてから初めて表面化する。すると、職場側も本人側も選択肢が狭くなり、欠勤や休職、離職以外の道が見えにくくなります。

これを防ぐには、まず相談の入口を明確にする必要があります。厚生労働省の「治療と仕事の両立支援ナビ」でも、事業者向けに「両立支援の取組方法」「相談可能な支援機関」「活用可能な支援人材」などが整理されており、環境整備の重要性が示されています。

相談窓口は、設置してあるだけでは十分ではありません。就業規則や社内ポータル、健康診断後の案内、復職支援の情報提供など、社員の目に触れる場面で具体的に示されていることが大切です。また、相談内容が本人の同意なく不適切に共有されないこと、相談したこと自体が不利益な評価につながらないことも、あわせて明確に伝えておく必要があります。

さらに、「どのタイミングで相談するとよいか」の目安を示しておくことも有効です。診断がついたとき、治療方針が変わるとき、通院頻度が増えるとき、復職を考えるときなど、相談のきっかけを具体化することで、本人は動きやすくなります。相談先は必ずしも人事だけである必要はなく、産業医、保健師、外部相談窓口など複数の選択肢があるほうが、早めの対応につながりやすいでしょう。

「就業上の制約」を整理

両立支援で企業側が陥りやすいのは、病気の詳細を把握しようとしすぎることです。しかし、人事や上司が行うべきなのは医学的判断ではありません。大切なのは、仕事をするうえでどのような制約があり、どんな配慮があれば就業継続しやすいかを整理することです。

厚生労働省の考え方でも、両立支援の対象者には、入院や通院、療養時間の確保だけでなく、疾病の症状や治療の副作用、後遺症などによって業務遂行能力が一時的に低下する場合があるため、時間的制約への配慮だけでなく、健康状態や業務遂行能力も踏まえた就業上の措置が必要だとされています。

実務では、たとえば次のような観点で整理すると考えやすくなります。

時間的制約:月に何回程度の通院が必要か、急な受診や早退の可能性があるか

身体的制約:長時間労働、立ち仕事、重量物の取り扱い、出張や移動が可能か

環境面の配慮:休憩の取り方、感染リスク、在宅勤務の可否、トイレや静養場所へのアクセスなど

精神的・認知的影響:治療や薬剤の副作用による眠気、集中力低下、判断力の揺らぎ、ストレス耐性の低下など

こうした整理ができると、「この日は在宅勤務にする」「一定期間は夜勤や出張を外す」「業務の一部を分担する」といった現実的な対応に落とし込みやすくなります。逆に、病名だけを知っていても、職場で何を変えればよいのかは見えてきません。両立支援では、病名そのものよりも、働き方への影響を把握することが実務上はるかに重要です。

属人化を防ぐ社内外連携と、厚労省ツールの活用

両立支援を現場の上司一人に任せるのは危険です。上司が抱え込み、本人との関係性だけで調整しようとすると、情報共有が不十分になったり、対応の公平性が損なわれたり、チーム全体の負荷が偏ったりします。治療と仕事の両立は、本人、上司、人事労務、産業医、保健師などの産業保健スタッフ、そして必要に応じて主治医や医療機関との連携を前提に進めるテーマです。

厚生労働省は「治療と仕事の両立支援ナビ」で、こうした連携を支えるための参考資料や様式例を公開しています。勤務情報を主治医に提供する際の様式例、治療の状況や就業継続の可否などについて主治医の意見を求める様式例、職場復帰の可否などについて意見を求める様式例、治療と仕事の両立支援カード、両立支援プランや職場復帰支援プランの作成例などがそろっています。

これらのツールのよいところは、企業から医療機関へ勤務実態や業務内容をできるだけ正確に伝え、医療機関から企業へ就業上の留意点を返してもらい、それを産業保健スタッフなどが職場で運用しやすい形に整える流れを可視化できることです。主治医に「働けますか」と丸投げするのではなく、「この業務内容であれば何に配慮が必要か」を具体的に確認するほうが、実務に役立つ意見を得やすくなります。

社内に十分な産業保健資源がない企業では、地域産業保健センターや産業保健総合支援センターなどの外部資源も視野に入ります。すべてを社内だけで完結させようとせず、使える支援につなぐ設計も大切です。

両立支援は「健康経営」の中核にもなる

人事や健康経営の担当者がこのテーマを社内で進めるには、法改正への対応だけでなく、企業にとっての意味を伝えることも欠かせません。厚生労働省の関連資料でも、両立支援に取り組むことは、労働者の健康確保と就業継続だけでなく、安心感や人材定着、生産性の向上につながる取組として位置づけられています。

これは、健康経営の考え方とも重なります。病気を理由に熟練した社員が離職すれば、採用や教育のコストが増えるだけでなく、ノウハウの喪失にもつながります。逆に、必要な配慮のもとで働き続けられる仕組みがあれば、本人の経験や能力を活かし続けることができます。また、「もし自分が同じ立場になっても相談できる」と感じられる職場は、当事者以外の社員にとっても安心感のある環境です。

両立支援は単なるコストではなく、組織のレジリエンスを高める投資です。病気を抱える社員への配慮が、結果として全社員の信頼やエンゲージメントを底上げする。その視点で位置づけることが、これからますます重要になっていくでしょう。

まとめ

では、企業は具体的に何から着手すればよいのでしょうか。まずは次の3点から始めるのが現実的です。

現状把握と方針の明確化

自社にどの程度、通院や継続治療と仕事を両立している社員がいるかを把握し、経営層や人事が「両立支援に取り組む」という姿勢を示すことが出発点になります。

相談フローの見える化

本人が相談したあと、誰が受け、誰に確認し、どのように配慮事項を決め、現場でどう運用するのか。その流れを図や文章で共有するだけでも、現場の迷いは大きく減ります。

管理職への基本研修

病気を抱える部下から相談を受けたとき、最初にどう反応するかはとても重要です。「話してくれてありがとう」「一緒に整理しよう」という初動ができるだけでも、その後の支援の質は大きく変わります。

大切なのは、困ったときに相談できる入口があり、必要な情報を整理し、関係者と連携して対応できる土台があることです。治療と仕事の両立支援を、善意に頼る個別対応ではなく、組織のインフラとして整えていくことが、これからの企業の持続可能性を左右する鍵になっていきます。

※制度の詳細や最新情報は、厚生労働省の案内ページや「治療と仕事の両立支援ナビ」で随時確認してください。

【参考】

厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日 厚生労働省告示第28号)

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001666578.pdf

厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ」

https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp

厚生労働省「治療と就業の両立支援」周知資料

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001667374.pdf

厚生労働省「治療と仕事の両立支援対策について」

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001269657.pdf

厚生労働省関連資料「治療と仕事の両立支援をめぐる現状とこれまでの取り組み」

https://jsite.mhlw.go.jp/saga-roudoukyoku/content/contents/001636818.pdf

厚生労働省 「不妊治療と仕事との両立のために」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14408.html

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この記事を書いた人

人が生きていく上で最も重要なことは、心身の健康だと考えています。「まだまだ若いし、自分には関係ない」、私自身も数年前まではそう考えていました。しかし海外での生活を経て、日本でとても恵まれた医療環境にいたことに気付き、その環境に甘えていたことを痛感しています。看護師として、また働く母として、皆さんの健康への意識を高められ、そして働くお母さんたちの力になれる情報を発信したいと考えています。