【健康経営】HPVワクチンの基礎知識

従業員の健康経営は企業にとって重要な課題です。

健康経営の中でも「予防」の観点は非常に価値のある働きかけであり、その一つが「予防接種」です。

今回のコラムでは昨今話題となっているHPVワクチンについてお伝えします。

皆さんはHPVワクチンと聞くと何を思い浮かべますか?

「女性が打つ注射」「副反応が怖そう…」など、人によって様々な意見をお持ちだと思います。

HPVってなに?

まず、そもそもHPV(ヒトパピローマウイルス)とはなんでしょうか?

HPV(ヒトパピローマウイルス)とは、性交渉によって感染し、性交経験のある多くの女性が感染する可能性があるウイルスです。感染してもほとんどの場合自然に消えますが、子宮頚部に感染すると子宮頸がんになるなど、一部の人ではがんになってしまう可能性があります。

HPVには200以上の遺伝子タイプがあり、そのうち子宮頸がんと関係が深いとされる少なくとも15種類のタイプは「高リスク型HPV」と呼ばれています。

また、これら「高リスク型HPV」はよく知られている子宮頸がん以外にも、中咽頭がん、肛門がん、腟がん、外陰がん、陰茎がんなどにも関わっていると考えられているため、男女ともに関係があるウイルスなのです。

ワクチンの種類

小学校6年~高校1年相当の女性は、予防接種法に基づく定期接種として、公費によりHPVワクチンを接種することができます。また、地域によっては男子への予防接種費用の助成を開始しているところもあります。

現在、公費で受けられるHPVワクチンは、3種類(サーバリックス(2価ワクチン)、ガーダシル(4価ワクチン)、シルガード9(9価ワクチン)) です。どのワクチンも一定の期間をあけて3回接種します(シルガード9のみ、初回接種年齢が15歳までであれば2回接種で終了となることもあります)。

 サーバリックスとガーダシルは、子宮頸がんを起こしやすいHPV16型・18型という2種類の高リスク型HPVの感染を防ぎ、子宮頸がんの原因の50~70%を防ぎます。一方シルガード9は上記に加え、特に日本人の子宮頸がんの原因として多く見られる52型、58型HPVを含む5種類の高リスク型HPVの感染を防ぐため、子宮頸がんの原因の80~90%を防ぎます。シルガード9は2020年7月に承認された、1番新しいワクチンで、2023年4月から公費対象になったばかりなので、今後接種が進んでいくことが期待されています。

また、ガーダシルとシルガード9については、尖圭コンジローマの原因となる6型・11型の「低リスク型HPV」についても感染予防することが可能です。尖圭コンジローマとは男女ともに感染の可能性がある性感染症で、がんとは異なり良性の病気ですが、再発しやすく完治が難しいとされます。万が一女性が妊娠中に尖圭コンジローマを発症すると、出産時に赤ちゃんがHPVに感染する可能性があり、また妊娠中は使用できる薬物に限りがあるため、こちらについてもワクチンで予防することが大切だと考えられています。

ワクチンの効果

HPVワクチンは、すでに感染してしまったウイルスを排除する効果はなく、感染を「予防」する効果があるワクチンです。したがって大切なのは「初めての性交渉の前に接種すること」であり、今までの研究から16歳までに接種することで、接種していない人に比べ88%も子宮頸がんになるリスクが減っていたこともわかっています。

もしすでに性交渉の経験があっても、ほとんどの人が感染予防は得られると考えられていますが、すでにいずれかの型のHPVに感染している可能性があるため、ワクチンで得られる効果が低下することが考えられます。そのため今までの研究の結果から、26歳以下のワクチン未接種者ついてはワクチンの接種が勧められていますが、27歳以上のワクチン未接種者については医師と相談の上ワクチン接種について検討することが勧められています。

なおワクチンを接種しても、残念ながらすべてのHPVの型ができるわけではありませんので、しっかりと子宮頸がんの定期検診は受けるようにしましょう。

ワクチンの副反応

日本では毎年年間約1万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約2900人が命を落としているという現状があり、これは多くの途上国と比較しても患者さんが多い状況です。その原因は、HPVワクチン接種と子宮頸がん検診がなかなか進まないことにありますといわれています。ではなぜHPVワクチンの接種は思うように進まないのでしょうか?

日本では2013年にHPVワクチンの副反応についてマスメディアが多く報道したこともあり、HPVワクチンに対して「副反応が起こりやすいワクチン」というイメージを持っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

いままでに報告されたことのあるHPVワクチンの副反応については、ワクチンの添付文書などから確認することができます。ワクチン接種後に見られる主な副反応として、発熱や接種した部位の痛みや腫れ、注射による痛み、恐怖、興奮などをきっかけとした失神などが挙げられますが、その多くは様子を見ていれば回復するものであることがわかっています。稀に重い症状の報告もありますが、ワクチン接種後に見られる副反応が疑われる症状については、接種との因果関係を問わず収集しており、定期的に専門家による分析・評価がしっかり行われています。

またこちらも頻度は少ないですが、HPVワクチン接種後に「多様な症状」を認めることがあります。多様な症状とは、①知覚に関する症状(痛みやしびれ)②運動に関する症状(脱力や不随意運動)③自律神経等に関する症状(めまいや倦怠感)④認知機能に関する症状(記憶障害や集中力の低下)を指します。しかしながら、これらの症状はHPVワクチンの接種歴がない方でも一定数見られることから、厚生労働省は2016年に行われた副反応検討部会において、「多様な症状が HPV ワクチン接種者に特有の症状ではない」と結論付けました。また現在では多様な症状への対応として、各都道府県へ相談窓口の設置や、医療従事者側へのマニュアル作成など、万が一接種後長引く症状が出た際にも、安心して相談できる体制が整ってきています。 もしHPVワクチンを接種した後に体調の変化や気になる症状が生じたら、まずは接種を行った医療機関へご相談ください。

世界のワクチン接種率

WHOによると、HPVワクチンはすでに世界の多くの国で9~14歳の女子に接種されています。世界で一番HPVワクチン接種が進んでいるのはオーストラリアの89%、次いでイギリスの85%、カナダの83%と、北欧やオーストラリアは接種先進国であり、約9割の女性が最低1回はワクチンを接種していることが分かります。

世界の国々が高い接種率を実現する中で、日本でも以前は7~8割の接種率に届いていました。しかしながら接種後に生じる「多様な症状」が多く報告されたことで2013年から2021年までHPVワクチンの積極的接種勧告が控えられていました。したがってその期間に接種対象年齢であった女子の接種率は、2019年では1.9%と極めて低くなっています(現在、その期間に接種対象だった人に向けたキャッチアップ接種が行われています)。現在では医療従事者などによる懸命な啓発活動などによって、日本国内でも徐々に接種が広がってきています。

また、ワクチンを接種している人が増えることで未接種者のHPV感染が減少したという論文もあり、HPVは男女問わずワクチン接種して集団免疫を獲得することによって感染予防効果が期待できることも明らかになっています。実際、早くから男女ともにHPVワクチン接種を開始し現在も接種先進国であるオーストラリアでは2028年にHPVを撲滅できるという予測があり、日本もぜひ見習いたいところです。

まとめ

HPVワクチンを接種することによって、子宮頸がんを含む様々な疾病の予防が可能になることは長年の研究からわかっており、薬剤師の立場から申し上げますと、HPVワクチンの接種は男女関係なく望ましいと考えます。

しかしながらある一定の割合で、ワクチンの接種後に副反応が起こる人がいることも事実です。

まずはHPVワクチンについて正しく理解し、納得したうえで接種について選択していただけたらと思います。

参考文献

HPVワクチンに関するQ&A|厚生労働省

子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために|公益社団法人 日本産科婦人科学会