女性活躍推進や両立支援、働き方改革に取り組むさまざまな企業へインタビューし、制度や仕組みづくりへの取り組み、風土醸成や浸透の工夫、担当者の想いなどを聞きました。人事担当者やダイバーシティ推進担当者のリアルな声をお届けします。
今回は、「洋服の青山」を中心に、全国規模でビジネスウェアの販売を行う「青山商事株式会社」を取材しました。
プラチナくるみんの認定取得に関連した、育児と仕事の両立を支援する仕組みや女性社員のキャリア支援、男性育休の取得推進への取り組みを、人事部の岡さん、藤井さん、広報部の岩永さんにお話を伺いました。
47都道府県に店舗を展開、ビジネスウェア販売の業界最大手
― まずは貴社の事業内容についてお聞かせください
岩永さん: 当社は全国に「洋服の青山」や「ザ・スーツカンパニー」「スーツスクエア」などの店舗を展開しています。メンズ色の強いイメージがあるかもしれませんが、近年では、レディスウェアの強化・拡大も行っています。
― スタッフの構成や男女の比率はどのようになっていますか
岡さん: 年齢構成としては概ね30代が中心になります。
男女の比率は、20代は女性の方がやや高く、30代以上は男性の比率が高いという状況です。直近5〜6年の新卒採用に関して、6割〜7割近く女性を採用していますので、20代は女性の比率が高くなっています。
― 新入社員の配属先としては、店舗からとなるのでしょうか
岡さん: はい、基本的に新卒で入社をした後は、大半が「洋服の青山」か「スーツスクエア」などの店舗に配属されます。店舗で一定期間経験を積んだ後に、本人の希望を踏まえて、本社などに異動することもあります。
ITや経理など専門性の高い職種に関しては、直接本社に配属することもありますが、基本的にはまずは店舗への配属が主流です。
育休取得のフォローは経験者の声を活かして -情報発信やコミュニケーションの工夫で理解を促進-
― 昨年(2023年)「プラチナくるみん」を取得されたと伺っております。これまでのお取り組みの結果としての認定取得とは思いますが、特に注力されている取り組みはございますか
藤井さん: 2021年にくるみんを取得した際は、社内の「ウーマンアドバイザー」を中心に、産休・育休を取得したい方へのフォローや情報発信を行いながら、育休を申請しやすい環境、両立しやすい環境、休業に入りやすい環境づくりに取り組んでいました。
今回、プラチナくるみんの認定取得に際しては、休業中の不安の払拭、復帰後のキャリア支援など、休業前・休業中・休業後の一貫したフォロー体制をしっかり構築ができた点を評価されました。
―今お話の中にあった、「ウーマンアドバイザー」は社内から選任されるのでしょうか
藤井さん: はい、社内で選任しています。2018年から設けた相談窓口で、現在(2024年2月)は5名のウーマンアドバイザーがいます。そのうち3名は出産を経て復帰した社員です。休業・休暇の制度の案内や、申請のフォロー、仕事との両立についての相談窓口など当事者のサポートを行なっており、人事部のウーマンアドバイザーは、様々な制度利用申請対応や給付金の手続きをするなど、実務の部分も担当しています。
―男性の育休取得に関して、特に取り組まれていることはありますか
藤井さん: 両立支援に取り組む2018年までは、男性育休の実績はゼロでした。
2018年から本格的に男性の育休取得の推進に取り組み、今では年を追うごとに育休を取得する男性従業員は増えており、2022年度の取得率は77.6%となりました。
最初の年に関しては、取得日数が1日や2日など短い期間での取得ばかりでしたが、我々からの情報発信や、実際に育休を取得した人の声、事例などを定期的に発信するようになって、3ヶ月から半年、長い方で1年以上取られる方も年に数人出てくるようになりました。
男性でも育休を取得するという意識が徐々に広がってきて、男女を問わず安定して育休を取得する方が増えているという印象です。
― 情報発信の効果が結果として見えてきていますね。発信の方法に工夫はされていますか
藤井さん: 年に1回、男性への「プレパパセミナー」、女性への「プレママセミナー」を実施しています。また育休中の方を対象にした「育休セミナー」は男女を対象に年2回開催しています。セミナーでは、制度の利用方法や申請方法など、実際の制度利用に関しての情報発信があります。
また社内報「あおいろ」では、育休の取得率や制度の紹介、実際に育休を取得した人へ取材して、インタビュー記事として掲載するなど社内での情報発信、啓発を行なっています。
―なるほど。実際に取得された方の声は、次の取得の後押しになりそうですね
岩永さん: 2018年から男性の育児休業取得を会社として推進していく中で、当初は男性も育児休業が取得できるという認識すらない状況でした。まずは男性育児休業という制度が存在することや、育児休業を申請する具体的な方法を知ってもらうための情報発信を行なっていました。
また全国に展開している各店舗に対して、その地域を統括する役割の管理職層に向けて、男性の育休を推進していきましょうと啓発を行なっていました。
―当事者だけではなく、管理職が制度を知ることで、取得のしやすさにつながるかなと思います。管理職層への周知や意識づけの工夫などはありますか
岡さん: 店舗の店長となると40代から50代の社員がいます。これらの年代の方が若かった頃は、男性が育休を取得するという実績や意識がまだない時代でした。そのような管理職層に対してしっかりと情報提供しながら、男性育休取得の重要性を理解してもらい風土をつくっていくことが重要だと考えています。
―コミュニケーションで工夫されていることはありますか
藤井さん: 管理職者向けのガイドラインや資料の配布はもちろん、現場の上位管理監督者に対して育休を取得した当事者の声を聞いてもらう機会をつくっています。 社内セミナーを開催する際に、育休を取得した社員と上位管理監督者をゲストとして招き、実際の体験を共有してもらいます。それに対して、管理者がどのように感じたか、どのような環境を作るべきかなどについて、双方向の意見交換ができる座談会の場を設けています。
―当事者のリアルな声を聞くことは効果がありそうですね。地道な積み重ねが徐々に結果に結びついているんだなと感じます
岡さん: 時代背景や価値観の違いを理解して、意識や行動を変えることが重要だと考えています。今の当事者と管理職層との対話での気づきも大事ですし、当社はビジネスウェア事業を主軸としているので、女性の社会での活躍がビジネスウェア事業の成長に結びついているということを、経営に絡めてロジカルに説明する必要もあると感じています。
女性従業員へのキャリア支援 -ロールモデルとの対話で将来のキャリアイメージを明確化
―女性活躍推進に関して、キャリア支援のための制度や仕組みは何かございますか
藤井さん: 研修が中心にはなりますが、入社4年目の若手社員を対象とした、女性のキャリア研修を実施しています。ほかには育休から復帰して約1年経った女性社員を対象とした「両立キャリア研修」の実施もあります。
「キャリア」という言葉を聞くと、多くの人は昇進することをキャリアと思い浮かべることが多いと思います。研修では、キャリアには上、横の広がり、そして深さの3つの軸があることを説明しています。自分の経験や将来を考えながら、キャリアの描き方は自分自身で決められるというマインドを醸成することを目的としています。
その中で、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)についても説明しています。自分の物事の見方や考え方にフィルターがかかっている可能性があることを理解してもらい、周りの声を聞き、自身の状況に照らし合わせながら考える機会を設けるようにしています。
研修などでロールモデルとなる女性社員を招き、彼女たちのキャリアについて話してもらう機会をつくっています。彼女たちをお手本にすることで、自己の現状を照らし合わせ、今自分が目指しているキャリアと3年後、5年後のキャリアを具体的にイメージしやすくなると思っています。
―そうですよね。まだ多くの女性が管理職になることや昇進に抵抗感を持っているという印象があります。キャリアの軸が上だけではないと理解する機会を提供するのは、非常に良い取り組みだと感じました。キャリア支援を始められて、効果は何か見えてきていますか
藤井さん: 継続就業の観点から見ると、2018年は5年弱でしたが、2022年には7年となっています。また、女性の管理職比率も現在10%を超え、徐々に効果が現れてきていると感じています。
これまでは周囲にロールモデルがいなかったので、キャリアや両立の不安を感じていたと思います。ウーマンアドバイザーの存在やキャリア支援などの取り組みを進めることで、女性の活躍が徐々に広がる良いサイクルが生まれつつあり、新たな課題にも取り組んでいます。
支える側の理解促進を通じて、全従業員が働きやすい環境整備へ
―今後注力されたいお取り組みや展望をお聞かせください
藤井さん: 継続的な施策も含め、今後注力していきたいのは、ウーマンアドバイザーの拡充、イクボスの育成、介護と仕事の両立支援の3つです。
ウーマンアドバイザーは、現在は本部所属のメンバーだけで構成されています。現場に根ざしたアドバイザーの拡充を進めていきたいと思っています。
本部と現場では働き方に違いがあるため、同じ状況で働いている人への相談や意見交流を求める声があがっています。現場でのウーマンアドバイザーの拡充とともに、従業員同士の横のつながりを広げる仕組みをつくっていけたらと考えています。
育児休業や産休など、管理職層が、従業員や部下のワークライフバランスに対する理解があることで現場の環境が整っていくと思うので、イクボスの育成という意味でも、理解を促す啓発活動や意識改革を推進していきたいと思っています。 両立支援で言うと、結婚や妊娠出産だけでなく、介護や自身の不調など、長く働く過程で必ず直面するライフイベントもあります。どの年代でも、これらのライフイベントにさしかかったときに安心して働き続けられるように、制度の整備や情報の発信を積極的に行いたいと考えています。
―誰もが長く安心して働き続けられる環境づくりへの取り組みは重要ですね
藤井さん: 今は特に女性活躍という文脈で、育児との両立支援、育休取得の推進に力を入れて取り組んでいますが、将来的には女性だけではなく、全従業員が働きやすい環境をつくりたいという想いが根本にあって取り組みを行っています。
ー誰もが気持ちよく働けるように環境整備や風土の醸成は大事ですね
岡さん: 当社は、「すべての人が輝くステージに」というダイバーシティ&インクルージョンのステートメントを掲げています。価値観が多様化する中で、それぞれの個を大切にしながら、やりがいを感じて働ける環境を整備し、風土を醸成することが重要だと考えています。
全員がしっかりと活躍できる環境を整え、会社の成長につなげていくことが一番の目的なのでそれを達成するために今後も継続して取り組みを行なっていきたいと思っています。
― 2018年からの地道な各種取り組みの積み重ねが、しっかりと結果に結びついていると感じています。大変参考になるお話をありがとうございました!
■ 会社情報
会社名 | 青山商事株式会社 |
所在地 | 広島県福山市 |
事業内容 | ビジネスウェア事業 カード事業 印刷・メディア事業 雑貨販売事業 総合リペアサービス事業 フランチャイジー事業 その他の事業 |
設立 | 1964年(昭和39年)5月6日 |
従業員数 (2023年3月31日現在) | 10,796名(連結) 5,263名(単体) (パートタイマー含む) |
公式ページ | https://www.aoyama-syouji.co.jp/ |