女性活躍推進や両立支援、働き方改革に取り組むさまざまな企業へインタビューし、制度や仕組みづくりへの取り組み、風土醸成や浸透の工夫、担当者の想いなどを聞きました。人事担当者やダイバーシティ推進担当者のリアルな声をお届けします。
今回は、1905年の創業から100年以上にわたり日本のツーリズム産業の発展の一翼を担ってきた、総合旅行会社の「株式会社日本旅行」を取材しました。
えるぼしのプラチナ企業認定への取り組みと、女性活躍のための仕組みや環境づくりについて、総務人事部 働き方改革・女性活躍推進担当 担当部長の三好幸代さんにお話を伺いました。
ソリューション事業とツーリズム事業の2本柱で顧客の求める価値を実現
― まずは貴社の事業内容についてお聞かせください
創業以来、団体及び個人の国内旅行・海外旅行、訪日旅行を含め旅行業の全般を主軸として事業を展開してきました。特にコロナ禍以降は、旅行業の枠を超えたソリューション企業としての変革を加速させています。顧客や地域の抱える社会課題へ挑む「ソリューション事業」、旅行業を中心とした「ツーリズム事業」の2本柱として、DXをはじめとする手法で積極的に取り組んでいます。
―旅行代理店業からソリューション企業へと展開する中で、働き方も変わってきていると思いますがいかがでしょうか
そうですね。従来はいわゆるリアル営業と言われる、対面や訪問など直接お客様と接する営業手法がほとんどでした。
インターネットの普及とともに、旅行の買い方もオンライン化が進み、コロナ禍をきっかけに、DX推進をする部署が立ち上がるなど、社内のDX化も一気に進みました。
今では社内のミーティングもオンラインとなり、リモートワークもできる環境が整っています。働き方改革とDX化はすごく密接に並走していると感じています。
旅行業界で初めての えるぼし「プラチナ企業」認定
― 旅行業界で唯一の「プラチナえるぼし」の取得とのことですが、注力されている理由や背景をお聞かせください
えるぼし認定の中でも最高ランクである「プラチナ企業」の認定を、業界で初めて取得したということで、私どもも喜ばしいと思っています。
2021年4月から、女性活躍推進に関する行動計画を打ち出して、各種取り組みを継続してきた結果ではありますが、このプロセス自体が非常に重要と考えています。
この行動計画には、中心となる2つの指標を設定しました。
1つは「管理指導層における女性比率を20%以上とする」という女性の管理職比率、もうひとつは「社員の男性平均勤続年数に対する女性平均勤続年数を 60%以上とする」女性の継続就業の比率です。この2つに焦点を絞り、それを達成するための取り組みを進め目標数値を達成した結果、認定取得につながっています。
―御社の従業員における女性の比率が高いという部分も、取り組みの背景にありそうですがいかがでしょうか
当社は、約2,500人の社員の中で、女性比率が46%と比較的高い比率となっています。もともとの事業の主軸であった、旅行販売業が比較的女性に親和性がある職種であるため、女性比率の高さは旅行会社全般に言えることです。 特に女性社員が、ライフイベントを迎えても安心して働けて、仕事と家庭の両方の充実が図れるよう、ワークライフバランス支援制度の整備など、解決に向けた取り組みを推進してきました。
―女性の比率が比較的高めで46%を占めるとおっしゃられていましたが、以前からこの傾向なのでしょうか?それとも最近の傾向でしょうか
年齢層の分布を見ると、50代以上は男性比率が同年代の女性の約2倍となっていて、その世代の男性が会社の中で一番多い人数を占めています。
ただし40代以下は、女性の方が比率として上回っていて、今年度入社する新入社員の比率で言うと8割が女性です。これから女性比率がさらに上がっていくことを考えると「女性活躍推進」が、企業として重要なテーマとなります。
―これからは若い世代がいかに活躍できるかが焦点になりそうですね
ライフステージ、ライフイベントに合わせた支援が重要だと思っています。
その中でも「出産」は、男女に関わらず大きなライフイベントです。
現在は共働きをしている世代が多く、女性活躍という観点で、男性の育児参画は重要と考えています。女性側の支援はもちろんですが、男性育休を推進・支援できる環境や仕組みの整備、社員への理解促進・啓蒙にも力を入れて取り組んでいます。
社員の声をダイレクトに社長や役員へ届ける「ミライトーク アゴラ」
―女性活躍や働きやすい環境づくりのために、当事者となる社員の声を吸い上げる仕組みや共有する機会はありますか
社員の声に耳を傾けるために、社長や役員たちとダイレクトに会話ができる機会や場づくりは会社として積極的に取り組んでいることのひとつです。
未来を考えたダイレクトトークという意味で、「ミライトーク アゴラ」という名前で、社長と社員によるオンライン対談を2022年の4月から運用・実施をしています。
特に経営陣が直接社員の声を聞くという部分は、20年近く前から大事にしています。コロナ禍以降はオンラインでの実施ができるようになり、月に1回の頻度でディスカッションできる場を設けています。
働き方や女性活躍というテーマは昨年からも取り上げていて、私も同席し社員からの声をインプットしている状況です。ここから課題を整理して、できるものから一つずつ優先順位をつけて対応していこうとしています。
「ミライトークアゴラ」実施の様子 (中央に小谷野社長を囲んで『女性管理職』をテーマに実施)
―社員の声を社長に直接届けることができるという機会は、コミュニケーションの面ではもちろん、会社として社員の声を大事にしていますという姿勢やメッセージが伝わるすばらしい取り組みですね。こういった場以外にも、制度を浸透させる工夫や仕組みは何かありますか
社内への浸透という面では、まだまだやるべきことは多いと思っています。
社員の声を聞いて制度を改訂したり、運用ルールを変えたりしても、なかなか全体への浸透は難しいと感じます。対象になる当事者は、自分でいろいろ調べたりしますが、その周囲のメンバーや、マネジメント層にはまだまだ理解や認知が不足していると感じる場面もあります。
まずは、トップのメッセージが、役員から管理職層、一般社員まで隅々に浸透するような仕組みづくりを検討しています。本社で勤務する社員と全国の各支店の社員、部門やエリアに対して、横断的に周知・浸透させていく取り組みをこれから始めようと考えています。
また社内のポータルサイトの改修も検討しています。今は情報が点在していてほしい情報を見つけにくいという問題点があるので、情報を探しやすく、手続き等のフォームも見つけやすい、社員が便利に使えるポータルサイトにしていきたいと考えています。当事者のみならず、職場の上司や同僚の制度・知識の理解促進にも有効だと考えています。
―システムがあるだけではダメですし、継続的なアナウンスと、システムをそれぞれうまく使ってなるべく多くの人に広げていくことが大事ですね
そうですね、特に今の管理職層が40〜50代で8割が男性です。
その男性のマネジメント層の理解というのが非常に重要であると同時に、課題としても大きいと思っています。
特に50代の男性社員は、自身が育児に参加した経験が少なく、男性が外で働くという時代背景から来る価値観の違い(性別役割分担意識)が大きいと感じます。
現在の若い世代には、男性も育児に参加するのが当然という理解が広まっていますが、その価値観の変化を受け入れるのは容易ではありません。自分自身も含め、過去の経験を踏まえると、40年間の習慣を数年で変えるのは難しいはずで、意識的に考え方や視点を変える必要があると感じています。 管理職層に価値観の違いを理解、浸透させ、サポートを必要とする当事者たちが躊躇せずに安心して制度を利用できるような環境づくりがとても重要だと思っています。個々の社員に必要な支援を行い、一人一人が持てる能力を存分に発揮し「働きがい」を持てる風土を育てていくことに一番力を注いでいきたいと考えています。
現場の目線で、満足度の高い女性活躍推進を目指して
―最後に三好さまの想いや今後の展望などをお聞かせください
私もこの立場に就くまでは、ツーリズム事業の現場に近いところにいたので、現場から見る景色と本社管理部門から見る景色は随分違うと感じています。
会社としては、導入により働き方の改革・推進になる制度や仕組みも、お客様優先で動いていく現場では、物理的に使えないことも多々あります。その温度差みたいなものは、大きな課題だと思っています。
年齢や職種により、働き方や働く環境が異なるので、全員が同じ価値観で取り組むのは難しいと思います。しかし、私自身の経験や現場の声を活かし、制度と運用ルールをうまく組み合わせることで、制度や仕組みが当たり前に運用され、活用できるようにすることを目指していきたいです。
この女性活躍推進というミッションに対して、社外への発信だけではなく、社内広報にも注力し、社員のエンゲージメント向上を推進していくことが、私のミッションであり、最大のテーマだと感じています。
―ありがとうございます。ここまでお話を伺ってきて、三好さんご自身がライフステージの変化を乗り越えて活躍されていて、ロールモデルのような働き方をされてきたのかなと感じていますが、いかがですか
ライフステージの変化に応じて、という部分はずいぶん前の話になるので今参考になるかは分かりません(笑)ただ、これまでの経験を踏まえ、私が今この立場であることの意味は感じています。 実は私自身、この1月(2024年1月)に、今の「女性活躍推進担当」という役割を任命され、関西から東京に転勤してきたばかりで、仕事も家庭も大きな変化をむかえました。
―関西から東京に!?大きな転機をむかえられたのですね
私も驚きましたし、周囲の反応も同様でした。ただ、これが男性であれば驚くことではないはずですので、やはりまだまだ女性が転勤を伴う大きな環境の変化に応じることが難しい社会であることを身をもって実感しました。
私自身は、30年来個人旅行の営業や営業管理の仕事をしてきました。今回のように、総務人事部で女性活躍推進担当という役割に任命され、大阪から東京へ転勤するという新たなチャレンジは、自分のキャリアにおいて全く想像していませんでした。
これまでの経験を含め、私の役割や位置づけ、女性活躍を推進する担当が会社の中にいますよということが、推進の第一歩になるのかなと自分自身の中で捉え直してポジティブに取り組んでいます。
「プラチナえるぼし」の認定取得は女性が活躍している会社という対外的なアピールもありますが、社内に向けても課題解決に取り組んでいると認知してもらうきっかけになればいいなと思っています。
―現場を知っている方がご自身の経験をもとに女性活躍への取り組みをスタートされることはとても頼もしく思います。本日はありがとうございました。
■ 会社情報
会社名 | 株式会社 日本旅行 |
所在地 | 東京都中央区 |
事業内容 | 旅行業、国際・国内会議の開催及び各種催事の企画、 立案ならびに運営に関する請負、 旅行・観光、文化に関するセミナーの開催ならびにコンサルタント業務、など |
創業 | 明治38年11月(1905年) |
従業員数 | 3,442名(グループ全体・2024年1月1日現在) |
公式ページ | https://www.nta.co.jp/ |