女性活躍推進や両立支援、働き方改革に取り組むさまざまな企業へインタビューし、制度や仕組みづくりへの取り組み、風土醸成や浸透の工夫、担当者の想いなどを聞きました。人事担当者やダイバーシティ推進担当者のリアルな声をお届けします。
今回は、通信事業を基盤に、さまざまな産業分野において最新技術を活用した革新的なサービスを創出する「ソフトバンク株式会社」を取材しました。
ソフトバンク株式会社では、多様な人材の活躍が会社の成長の原動力と考え、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の実現に向けた取り組みの一環として、女性の活躍を推進しています。女性活躍推進への取り組みについて、人事本部の、DE&I推進課 課長の木戸さん、ライフサポート課 課長の白井さん、ワークスタイルデザイン課 吉橋さんにお話を伺いました。
女性管理職比率を20%へ 女性活躍の基盤づくりに経営層がコミット
― 人材戦略として多様な人材の活躍、特にその中でも、女性の活躍推進という点に注力されて取り組まれていますが、特徴的なお取り組みなどはございますか
木戸さん:女性活躍推進に関しては、女性管理職比率を2035年度末までに20%とする目標を掲げて、社長を委員長とし、役員などで構成する女性活躍推進委員会を設置して取り組みを進めています。経営層も力を入れて、働き方や経営の変革としてコミットを目指している点が特徴的といえるかなと思います。
具体的には、キャリア研修の開催やメンタープログラムの実施など、女性の活躍を推進できる取り組みを着々と進めているところです。
通信業界は、業界的に、男性比率が比較的高いという傾向があり、当社も社員全体に占める女性の割合は30%弱ほどです。その中でも特に管理職に占める女性の割合はさらに低くなるという点に課題感を持っています。
採用時には、男女関係なく、ミッションや働き方にマッチする人に入社してもらい、入社後の業績への貢献度や能力は男女でほぼ差異はありませんが、等級(グレード)の昇格スピードや、管理職の男女構成比に男女間でギャップが生じている状況です。
全社でのアンケート調査からは、女性社員が管理職になりたいと希望する割合は男性より低く、その背景には働き方の問題や自信のなさなどがあるということが明らかになりました。 女性が男性に比べてチャレンジングな仕事や成功体験が少ないなど、いわゆるアンコンシャスバイアスが一因となっている可能性などを含め、ギャップが生じている原因の確認や解消に取り組んでいます。女性社員が活躍できる環境と働きやすい基盤を整備し、このギャップを解消することは、会社の成長にとって非常に重要と位置づけ、経営戦略のひとつとして積極的に取り組みを進めています。
―女性の活躍推進に関する両立支援という点ではいかがでしょうか
白井さん:女性活躍推進に関わるという点でお話しすると、やはり仕事と育児との両立になるかと思います。
すでに、育児休業や短時間勤務など、育児をしながら働く人を支える制度や仕組みは整っています。状況に応じて勤務体系を選択することができるため、女性が働き続けやすい環境になっているかなと思います。
また、男性の育児休業の取得が進んでいかないと、結局女性側が仕事をセーブしながら働かないといけないことになりますので、男性の育児参画を、会社として推進しています。
お子さんが生まれた男性社員には、ご本人の希望や意向を伺いつつ、育児休業制度の説明や、取得の方法などを案内しています。2022年の法改正のタイミングで、積立年休を育児休業に使うことができるよう制度の変更を行いました。そこから徐々に男性の育児休業の取得は増えてきていると感じています。
経済的な不安や業務との兼ね合いを理由に、育児休業の取得に消極的な男性社員も一定数いるなど、実運用に関してまだ課題も残っています。まずは育児休業を取得しやすい環境を整え、男性の育児休業取得のパーセンテージを上げていくことを目指して取り組みを進めています。 そのほかにも、配偶者出産時の有給休暇制度や子の看護や行事に利用できるキッズ休暇、短時間フレックス勤務など独自の育児支援制度を整備し、希望する従業員が育児に参加しやすい仕組みを整えています。男性の育児参画を促進していくことで、女性活躍の推進につなげていきたいと考えています。
社内でのイベント実施や、全社朝礼を利用して全社へ向けて情報を発信
―制度や仕組みの浸透やコミュニケーションの工夫という点で取り組みがあればお聞かせください
白井さん:そうですね、直近では社内で「ダイバーシティWEEK」を、木戸さんのチームがメインになって実施しました。
この「ダイバーシティWEEK」という取り組みは、ダイバーシティについての理解促進や意識醸成を目的に毎年テーマを決めて、セミナーや研修の開催、情報発信などを行います。
今回は、私の課や吉橋さんの課とも連携して、ダイバーシティや女性活躍推進をテーマにしたセミナーの実施や、育児支援制度を紹介するメルマガの配信などを行いました。
集中的に情報発信することで、いろいろな社員に興味を持ってもらうことができるので、仕組みや制度を知る良い機会になっていると感じています。
そのほかだと、吉橋さんのところは、全社朝礼をうまく利用されていますよね。
吉橋さん:そうですね。月に1回の全社朝礼の中で、社長から健康経営宣言をしてもらったり、朝礼前の時間を使って、全員で3分ヨガをしてみたりなど、健康経営というテーマに関しての情報発信を行っています。
朝礼はオンラインでライブ配信され、さらにアーカイブも配信されています。全社員がいつでもどこでも視聴できるので、情報発信の良い機会だと思っています。
白井さん:朝礼で、健康経営や女性活躍推進の話、男性育児100%宣言など、社長から発信されることで、社員としては、改めて狙いや取り組みを知るきっかけになりますよね。
ヨガの実施に関しては、すごくおもしろい取り組みです。朝一番に体を動かしてリフレッシュできますし、社長をはじめとする役員なども一緒になって一生懸命にヨガのポーズをする姿がライブ配信されることで、すごく短い時間ですが、私たち社員がそれを見て、ヨガを一緒にやってみようとか、健康への意識づけをするいい機会になっています。
吉橋さん:最初は社長や役員も、あまり乗り気ではなかったのですが、実際にやってみると社員から「社長もやっているなんて本当にすごいです」みたいな声が届いてきたことで、この発信は、効果的で大事です、ということをお伝えして継続した取り組みとなっています。
メンタープログラムで女性活躍のロールモデルを身近な存在に
―女性活躍のロールモデルとなるような方はいらっしゃいますか
木戸さん:部長職を務める女性も徐々に増えてきています。女性の中での最高職位としては、営業本部の本部長で執行役員の女性がいます。数年前にマーケティング関連の部署から営業の部署に異動し、今はコンシューマ事業における重要なポジションで活躍しています。
この方は、社内の女性リーダー育成のメンターとして、またDE&Iや女性活躍の推進役として、私たちと共に取り組みを行っています。女性社員が今後キャリアを進めていく上で、ロールモデルとなるような人が身近にいることが重要と考え、社内メンタープログラムを企画しました。社内の部長層や課長層の女性にお声がけをして、メンターとして協力をいただいています。
メンターとは
自身が仕事やキャリアの手本となって、若手社員や後輩に助言・指導をし、個人の成長や精神的なサポートをする人のこと。対話を通じてメンティ(指導やサポートを受ける側)の自発的な行動や成長を促す。
メンターとメンティの関係も、自分の理想はぴったりこの人とか、自分と対峙するロールモデルである必要はないと考えています。多様なロールモデルを知ることで、まずは身近に感じてもらい、自分自身もチャレンジできるかも、と気持ちが変化するようなきっかけづくりができるといいと考えています。キャリアについての不安を解消して、一歩踏み出すためのアドバイスをもらえるような環境づくりを心がけています。
メンタープログラムを通じて、社内で様々な人と話す機会や見てもらう機会をつくっていくことができるといいなと思っています。
女性活躍推進をきっかけに企業風土を醸成 誰もがいきいきと活躍できるダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指して
―今後、注力したいことや今後の展望をお聞かせください
木戸さん:女性が管理職になることが特別ではない環境や風土になるといいなと思っています。
女性で管理職になりたいと言うと、今だとまだ驚かれたりすることもあります。家庭か仕事かの二者択一ではなく、また家庭との両立がキャリアの制約になることがないよう、会社として支援していくことが重要です。
仕事をすることは、社会やお客さまに貢献して、自分自身の成長にもつながる、本来は楽しいことです。女性が管理職になることやキャリアアップすることを特別なことと思わずに、選択肢のひとつとして自然と考えられるような環境や風土づくりをしていきたいと考えています。
将来的に目指す姿は、女性も男性も社員みんながいきいきと自分らしく活躍できる会社になることで、女性活躍推進への取り組みをきっかけに、企業風土の醸成につなげていきたいと思っています。
白井さん:私の立場では、女性に限らず育児や介護という、何かしら事情を抱えている方が対象にはなりますが、事情を抱えながらも、仕事において活躍する意欲がある人をサポートするというポリシーで取り組んでいます。
短時間勤務や休暇の制度があっても、実際にはうまく両立できなかったという声を聞くこともありましたが、制度を活用しながら両立、活躍できるという部分を軸に、運用や働きかけをしていきたいと思っています。 また活躍といっても、フルタイムで残業が基本というような無理を通して働く、ということではなく、今置かれている状況や環境の中で、できる範囲で活躍できる環境づくりや風土となるよう、発信や啓発をしていきたいと思っています。
吉橋さん:健康経営の視点では、やはり女性活躍推進や働き方改革を下支えするのが、健康経営の仕組みだと考えています。
女性の活躍を後押しするために女性特有の健康課題の改善に取り組むことはもちろんですが、女性も男性も性別に関わらず、ライフステージに応じた健康課題へのお互いの理解を深めることが重要だと考えています。まずはひとりひとりのヘルスリテラシーを高めて、自分の体の調子を整えて活躍できる、成功体験につながるように取り組んでいきたいと思っています。
健康経営単体だけの取り組みではなく、他のチームの取り組みの下支えとなるように連携できればと思っています。
― お三方それぞれのお取り組みが、女性社員の活躍やダイバーシティの実現に向けた推進力につながっていると実感できました。本日はありがとうございました!
■ 会社情報
会社名 | ソフトバンク株式会社 |
所在地 | 東京都港区 |
事業内容 | 移動通信サービスの提供、携帯端末の販売、固定通信サービスの提供、インターネット接続サービスの提供 |
設立 | 1986年(昭和61年)12月9日 |
従業員数 | 単体:19,045人(2023年3月31日現在) |
公式ページ | https://www.softbank.jp/ |