働く世代のための腰痛予防ガイド:ぎっくり腰を未然に防ぐ

はじめに

腰痛は国民病ともいえます。令和4年度の国民生活基礎調査において、腰痛は20代以降、3番目に有訴者が多く、30代以降は1番有訴者が多いことがわかっています*1。

どの世代でも上位に位置づけられていることから、周りにいる方の誰かも腰痛に悩んでいるかもしれません。

表:年齢区分別の有訴数の順位

令和4年度国民生活基礎調査の結果を基に年齢区分別に有訴種別の順位を示した表を作成

ぎっくり腰とは?

ぎっくり腰は多くの方が耳にしたことがあるかもしれませんが、急に起こった強い腰の痛みを指すものとされていて、重たいものを持ち上げた際に起こるといわれますが、ふとした日頃の動作で起きたりするともいわれます。

ただ、このぎっくり腰というのはあくまで名称に過ぎず、病名や診断名ではないと学会から述べられています*2。そしてその原因は様々とされていて、特定の原因ではないと考えられています。

腰痛とは?

腰痛が起きると、原因は腰回りの筋肉や骨になんらかの問題があると思われるかもしれませんが、注意したいこととして、腰痛が起きる原因の一部は、神経由来のものや内臓由来、血管やこころなど多種多様です。このような原因があるものを特定的腰痛と呼び、原因が特定されないものを非特異的腰痛と分類されます。後者の非特異的腰痛は病態が解明されてなく、日々の体のケアや姿勢などを正していくことが有用と考えられています。ぎっくり腰も明確な治療法がないため、日々の体のケアが重要とされます。

受診したほうがいいか、どう判断すれば?

腰が痛いな、ちょっと違和感があるなと、感じたときに自己判断で体のケアを進めてよいかというと、特異的腰痛である場合には適切な処置が必要となるので、医療機関の受診が望まれます。

もし、以下の表で1つでも当てはまるものがあれば、非特異的腰痛ではない可能性が考えられ、治療の必要があるかもしれませんので、当てはまる方はただの腰痛と自己判断はせず、医療機関への受診を検討しましょう。*3

引用:産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアルver.1.0

ケアのポイント

特異的腰痛の恐れが少ないと思われる場合、ぎっくり腰を含めて、非特異的腰痛を起こさないための対処は2つです。

(1)腰痛が起きづらくするための体づくり

(2)腰痛が起きないようにする体の使い方

重要なのは、腰の部分だけ力を強くして、柔軟性を高めれば腰に良いわけではなく、腰以外の全身の筋力や柔軟性を改善させることと、腰によい姿勢や動作を日々の生活の中で取り入れることです。

代表的な体づくりの対応と体の使い方についてご紹介します。

ケア① 体づくり

原因によって必要な運動は異なるものの、背中や背中に近い腹筋や臀部の筋肉を鍛えることにより腰部の負担を減らすことができます。

実施回数や頻度はご自身の体力や運動習慣を踏まえて決定していくとよいです。

最近運動してないな、という方はまずは1日10回~20回を目安に始めていきましょう。

慣れてきたり、物足りなさを感じたりしたら、回数を増やすかおもりなどを持って1回あたりの負荷量を高くしてみると、より筋力アップの効果が期待できます。

体操1 四つ這いになって腕と脚を伸ばす

背中やお腹などの体幹のトレーニングです。

・四つん這いの姿勢をとり、腕と膝を肩幅、腰幅程度に広げます。

・反対側の腕と脚を交互に伸ばします。

・伸ばしてた姿勢で10秒間保ちましょう。

・10秒経ったら、反対側の腕と脚を伸ばします。

・腕と脚を伸ばしているときには背筋をまっすぐにして、背中を反らせたり丸めたりしないようにします。

体操2 スクワット

お尻や太ももの筋肉のトレーニングです。

・両足を肩幅程度に広げて、つま先はまっすぐ前に向けます。

・膝がつま先より前に出ないように意識しながらゆっくりと腰を落とします。

・腕を前に伸ばすとバランスがとりやすい。

・これを1日10回~20回行いましょう。

筋力トレーニング以外にも、腰回りの股関節や太もも周りの筋肉の柔軟性を高めることにより、腰にかかる負担を軽減することができ、腰に悪い姿勢を取りづらくなることができます。

体操3 背中を反らす体操 

日頃猫背になっていたりする場合、日頃かかっている腰への負担を軽減します。

・足を腰幅程度に広げて、腰に両手をあてます。

・腰(骨盤)を前に押し込むようにして上体を反らします。

・目線は斜め前を見るようにして、膝は伸ばして足の裏全体が床に着いたまま行いましょう。

・反らした姿勢で3秒保ったらゆっくりと元の姿勢にもどります。

体操4 太もものストレッチ

太ももの裏にあるハムストリングスという筋肉の柔軟性を高めると骨盤が後ろに倒れづらくなり、良い姿勢を作りやすくなります。

・椅子に浅く腰掛けます。

・手を太ももの付け根にあてて、背筋を伸ばします。

・片方の脚を伸ばして踵を床に当てます。

・そのままゆっくりと体を前方に倒します。

・この際、背中が丸まらないようにして、太ももの付け根に置いた手を体で挟むようなイメージで腰から前に倒していきます。

・20~30秒保ったらゆっくりと元の姿勢にもどります。

・これを1日左右1回ずつ行っていきましょう。

体操を行ううえでの注意として、太ももから足先にかけて痺れや違和感が生じたら体操は中止して、近隣の整形外科にご相談ください。

腰回りの神経に触れてしまっている可能性があるため、体操は中止して、医療機関で適切な体操方法を指導してもらうことが望ましいです。

ケア② よい姿勢を保つ・負担の少ない動きを取り入れる

良い姿勢とは、一般的には耳、肩、腰、膝、くるぶしが一直線上に位置するとよいとされます。鏡でチェックするか、壁に背中を向けて立ち、頭や肩甲骨、お尻、踵が背中に触れつつ、腰に掌が入るくらいのスペースがあるような姿勢でいるか確認してみましょう。

日頃、座っている時間が長い人は左右いずれかに重心が偏っていないかも重要です。両足をしっかり床につけて、背筋を伸ばした姿勢を意識しましょう。

物を持ち運ぶことが多い方は、持ち上げる際の体の使い方に注意しましょう。

低い所にある物を持ち上げるとき、前かがみの姿勢や背中が丸まった姿勢は、腰回りの筋肉や背骨を構成する椎間板と呼ばれる組織などに負担がかかってしまいますので、背筋を伸ばした姿勢でいることが重要です。床または足元の低い場所にある物を持ち上げるときには、床に屈んで物を持った状態で立ち上がりましょう。

最後に

腰痛の予防には健康的な体重(痩せてもなく肥満でもない)の管理が好ましいとされ、また、運動習慣がある方のほうが腰痛発症のリスクが軽減されるとされています。非特異的腰痛の原因には心因性のものもあると考えられています。

ですので、上記のような運動や姿勢づくりだけではなく、健康的な体重に近づけられるように適切な食事の摂取や規則正しい生活習慣も重要となりますし、日頃から運動する習慣をつくることも重要です。そして仕事や生活上のストレスマネジメントも重要となっていきます。

腰が痛い、という方もまだ痛みはないという方も、ぜひこの機会に運動を含めて健康的な生活習慣を意識してみてはいかがでしょうか。

参考

*1 令和4年国民生活基礎調査 第87表

*2 日本整形外科学会HP 2024年12月6日閲覧

*3 産業保健スタッフのための新腰痛対策マニュアルver.1.0

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