【セミナーレポート(前編)】職場でハラスメントにあったら マネジメントにも使える対策方法

2023年3月22日、動画学習コンテンツ「ファミワンラーニング」でオンラインセミナー「職場でハラスメントにあったら マネジメントにも使える対策方法」を開催しました。

 今回のセミナーは、ハラスメント研修によくある「どのような行為がハラスメントに当たるのか?」というレクチャーではありません。「そもそもハラスメントが起きやすい組織構造とは?」「解決策を考えるために軸となる考え方は?」といったことがよく理解できる内容でした

 本コラムでは、セミナーの内容を一部ご紹介します。セミナー全編の動画では、具体的な事例もご説明頂いているので、より理解しやすくなると思います。

 また、セミナー中にたくさんのご質問やご相談を頂きました。時間内に全てのご質問にお答えできなかったため、講師の森川先生に特別にご協力いただき、Q&A回答編の特別動画も公開しています。

 セミナー全編の動画と全質問への回答動画は「ファミワンラーニング」会員ページにて公開中です!会員登録はこちらから。


〈講師プロフィール〉 森川友晴 先生(チェリッシュグロウ株式会社 代表)

•専門分野: 心理学・心理療法をベースとしたコミュニケーションスキル、人材育成、レジリエンスなど
•講師経験
–企業に対し、若手中堅~管理職までに幅広い研修を実施(キャリア、交渉術、マネジメント等)
–メンター・OJTトレーナーの制度設計から研修までのフォローを実施
–レジリエンス・メンタルヘルスなどの専門研修を実施

セミナーの概要

セミナーの冒頭で、「ハラスメントの判断で重要なことは“業務の適正な範囲内を超えているかどうか”です」というお話がありました。ハラスメントというと、

「何かを強制するとハラスメントになる」
「相手がハラスメントだと思えば、それはハラスメントだ」というイメージがありませんか?
しかし、これはよくある勘違いだそうです。

 実際は場面によって判断する必要があり、適切に判断するためには

ハラスメントの正しい知識を持つこと

ブラックとグレーゾーンを切り分けること

が大切なのだそうです。

パワハラにはブラックとグレーゾーンがある

 まずは、明らかにハラスメントになるブラックゾーンについてです。

ブラックゾーン

 -業務上、適正な範囲を超えた行動のこと

 -パワハラの6分類(※)はアウト

(※①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③隔離・仲間外し、④業務上明らかに不要なことや不可能なことの強制、⑤業務上の合理性のない程度の低い仕事を命じたり与えないこと、⑥私的なことへの過度な立ち入り)

 ‐セクハラの3分類(※)はアウト

 (※①性的な内容の発言関係、②性的な行動関係、③職場外の言動)

 -ブラックな行為には、組織として「必ず対処する」

 -通常は懲戒免職など罰則が存在する

ブラックではないが、誰かにとって問題となるのがグレーゾーンです。

グレーゾーン

 -ある人とある人の「価値観の違い」によって生じる問題

 -「業務の適正な範囲」に対する価値観の違いがあるので判断が難しい

 -状況によって変わる「業務の適正な範囲」への理解の違い

 -グレーゾーンへの対応は、価値観や理解の違いについて「話し合うこと」

グレーゾーンでは、双方が大事な「自分の価値観を持っていること」を前提に、理解していくことが重要なのだそうです。

自分が行為者にならない、部下を行為者にしない対策

 加害者とならないために、「誰が見ても大丈夫だと思えるかどうか」という観点が重要なのだそうです。例えば、「私とAさん」の関係性では上手くいっているコミュニケーションでも、「私とBさん」の関係性では問題となる場合があります。また、「私は言われても大丈夫」だからといって、Cさんも大丈夫とは限らないという意識を持つことが大切になります。

 さらに、「相手に原因があるから攻撃されて当然」という考え方も危険なのだそうです。

 森川先生「相手に原因があろうがなかろうが、ハラスメントの定義に当てはまる行為はしてはいけないことなのだという考えを、組織の中で醸成するのが重要です」

ハラスメントが起きる背景を「交渉力」で考える

「ハラスメントの被害者になった時、なぜ防ぎづらいか」「ハラスメントが生じる関係性はどのようなものか」

 森川先生は「交渉力という概念で考えるとわかりやすい」と言います。上司の発言は強い交渉力を持つため、部下にとって脅威に映ります。その「交渉力」を支えているのが、「勢力(power)」という概念です。

 勢力の種類には、次の5つがあります。

1.報酬勢力:相手に対して報酬利益 を与えることによる影響力

2.強制勢力:相手に対して罰を与えることによる影響力

3.正当勢力:正当な権利を持っていることによる影響力

4.参照勢力:相手がその人に魅力を感じたり、 同一視する関係によって生じる影響力

5.専門勢力:相手がその人の専門性を求めることによって生じる影響力

 これらの勢力のどれかが強いと、交渉に勝ちやすくなります。

 森川先生「例えば、会社を辞めることが決まっている人って強いですよね。会社を辞める人には、報酬勢力や強制勢力が効かなくなっているからなんです。上司の勢力が弱くなっている状態だと言えます。ハラスメントを防ぐためには、相手の勢力のいずれかを減らす、もしくは自分の勢力のいずれかを高め、交渉力を持てるようにします。

 自分が上司なら、自分がどの勢力を持っているか自覚し、過度にその勢力を使わないように注意する必要があります。」

自分が被害者になった時にどうすると良いのか

ハラスメントでは?と思ったら、ハラスメントかどうかを確認する

 ブラックかグレーかを判断する時、個人の主観的な決めつけ・思い込みではなく、基準となる定義(パワハラ6分類、セクハラ3分類など)に照らしていくようにします。

 明らかなブラックではない、グレーゾーンであれば「価値観の違い」によって生じている問題の可能性があります。価値観の違いとして話し合うことができるか、歩み寄れるかどうかを考えてみます。

 「これくらいのことでハラスメントと言って良いのか…?」と、ちょっとでも迷ったら相談しましょう。会社内のハラスメント対応部署、もしくは外部の相談機関に相談することができます。(後述のハラスメント相談先一覧を参考にしてください)

 このとき、同僚や仲間内だけでブラックかグレーかを判断するのは避けた方が良いそうです。自分のつらさを聴いてもらえるのは心強いですが、仲間内での判断は一方への肩入れが強くなり、中立的な判断がしにくくなるためです。

対応するかしないかを検討する(戦うか逃げるか)

 カウンセラーでもある森川先生は、「逃げることは悪いことではない」と教えてくださいました。戦うのは被害者の負担が大きく、戦うためにはリソース(資源・武器)が必要です。自分を守るために逃げることも大切なのですね。

 ハラスメントに対応するなら、

  ・相手は「変化する人」かどうか

  ・自分にリソースはあるか(味方がいるか・行動する力はあるか)

を検討してみると良いそうです。確かに、何をしても変化しなさそうな人を相手に、ひとりで戦うのはかなり大変そうです。

 ハラスメントに対応しない場合は、

  ・相手の影響範囲から逃れる(異動や退職)

  ・影響範囲内だが自分が受ける影響を減らす

ことを考えてみるのだそうです。相手の影響範囲内にいながら、自分が受ける影響を減らすためのコミュニケーション術についてもご紹介いただきました。詳しくは本編の動画をご覧ください。ハラスメントへの対応だけでなく、ちょっと苦手な人と会話する時のスキルとしても実践できそうな内容です!

ここで、ハラスメントに悩んだ時の相談先をご紹介します

ハラスメントの相談先一覧

企業法務の法律相談サービス
厚生労働省「あかるい職場応援団」 
総合労働相談コーナー(各都道府県労働局)
法テラス(日本司法支援センター:パワハラ、解雇などの相談)
みんなの人権110番
ハラスメント悩み相談室(電話・メール・SNSでの対応)

〈相談する際に必要な情報〉下記のことを用意しておくと相談がスムーズです。

  1. ハラスメントだと感じたことが起こった日時
  2. どこで起こったのか
  3. どのようなことを言われたのか、強要されたのか
  4. 誰に言われたのか、強要されたのか
  5. そのとき、誰か見ていたか

後編(Q&A、さいごに)に続く>>>

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