誰もが働きやすい、働き続けられると思われる建築業界を目指してーけんせつ小町(前編)

けんせつ小町とは?

建設業で働くすべての女性の愛称「けんせつ小町」。
建設現場で働く技術者・技能者、土木構造物や建物の設計者、研究所で新技術を開発する研究者、お客様とプロジェクトを進める営業担当者、会社の運営を支える事務職など、活躍の舞台は多岐にわたります。

今回、女性活躍推進の一路として一般社団法人 日本建設業連合会企画調整部の本田様にインタビューをさせていただきました。

―今回、精力的に活動されている「女性の建設現場職人」として、Youtubeでけんせつ小町を拝見させていただきました。

本田様:ありがとうございます。私は、「日本建設業連合会(日建連)」という大手建設会社の業界団体の事務局をしています。日建連会員は現在141社あります。当会の会員様は日本全国における年間工事の完成工事高のうち約4分の1を占めています。

「女性が活躍できる建設業を目指して」をテーマに、2015年頃からけんせつ小町を開始しました。実は、当初は建設業界の人手不足対策がきっかけで「けんせつ小町」というネーミングができたのですが、その後、活動していくなかで活動自体が進化し、現在は“男女ともに働き続けられる環境づくり”という目的が強くなってきました。

増加する女性社員とけんせつ小町の存在の意義

—けんせつ小町とはどのような存在ですか?

本田様:けんせつ小町とは「建設業界で働くすべての女性」と定義していることが重要です。実際に現場で働いている女性だけでなく、設計や総合職、事務・営業のスタッフも含めて建設業界で働くすべての女性の愛称として「けんせつ小町」という名前をつけさせていただいております。こちらのロゴマークは、“ヘルメット”をイメージした5つの花びらで、建設業界キーワードであるQCDSE(品質・費用・工期・安全・環境)を表現しています。

—実際に建設会社で働く女性技術者はどのくらいいるのですか?

本田様:建設会社で働く女性技術者の割合は、直近20年間で約4.4倍に増えました。2001年は全体の1.8%しかいなかったのが、現在は7.9%まで増えています。15年くらい前までは、建設現場に行ったときに女性はあまり見かけませんでしたが、今はどの現場へ行ってもヘルメットを被った女性技術者があたりまえのようにいます。そこからも、男女比率が大きく変わってきたと実感します。そうすると、これまでは無かった問題や課題が生じたりもします。これからの建設現場のあり方や職場環境、長時間労働の問題を含めて、働き方の価値観を大きく変えていくきっかけになるのが、この活動の本質と思ってます。これまでは「建設現場は長時間労働・肉体労働」というイメージがあったため、男性しかできなかったと思いますが、実際、現場監督は女性も活躍しています。ただ、業界の特性上、現場があるため時間や場所の拘束があり、結婚・出産などのライフイベントがあることで、その仕事を続けられなくなってしまう課題が常にあります。今は建設業界自体、働き方、仕事のあり方を変えていかなければいけないというフェーズに来てるということです。

—20年間で女性技術者の割合は4.4倍(7.9%)に増えているのですね…!

本田様:そうですね。日建連全体の目標としては、2024年までに10%まで伸ばすことで、これからも傾向としては増えていくと思います。今ではある大手企業は「女性3割以上」という目標を定め採用を始めているところもあります。ただ、現在の課題は結婚・出産などのライフイベントです。これは女性だけというより男性も含めて、業界全体で一緒に考えていかないといけない課題だと思います。

けんせつ小町の活動についてートイレ問題にこまちっぷす

—これまでの活動背景を教えてください。

本田様:まずは、2014年にロゴマークを作り、その翌年に日建連の中に「けんせつ小町委員会」を立ち上げました。会員の中から31社に参加いただき、活躍支援(業界内)とPR(業界外)を中心とした活動を展開してきました。そして2019年に「けんせつ小町活躍推進計画」(2020年~2024年度)を定め、「誰もが働きやすい、働き続けられると思われる業界を目指す」というミッションが、現在の私たちの活動の核になっています。

—「定着・活躍・入職」とは、具体的にどのようなことをされているのですか?

本田様:まずは定着です。そのために、一番最初に行ったのは「職場環境整備マニュアル」の作成です。元々、マニュアル自体がなかったので、業界団体の日建連が主導して、会員から委員さんに参画してもらって作っていただき、今でもけんせつ小町のホームページ上に掲載し、広く活用していただいております。最初は紙ベースのマニュアル・チェックリスト、今度はより現場等でも使いやすいウェブ版の簡易チェックリストにし、それにあわせてポスターを作成して現場・作業所内に掲示してもらいました。

その中で、特に大きな課題は「トイレ」でした。元々は男性しかいなかったため、女性用トイレ自体が存在していませんでした。単に女性用トイレを設置するだけでなく、快適さや清潔感を求め、更には物理的にも心理的にも入りやすい、使いやすい動線等を考慮することが必要です。そのため委員さんと現場の視察をして、現場の方々との本音ベースでの意見交換を行いました。男性の視点だと気づかなかった課題も多々あり、こういったところも大きく変わってきているところですね。

—「こまちっぷす」とはどんなものですか?

本田様:こまちっぷすというのは、100円ショップ等で簡単に手に入るものを使って「トイレ内に台を置く」「着替える場所を置ける」など、そういった事例集をけんせつ小町ホームページの中に上げてます。“チップス“は裏技のようなものです。これまでは単純に好事例を見せたり、制度で解決していくという発想だったのですが、このようなわかりやすさと実際に他の現場で導入できるイメージにフォーカスして事例を掲載するのは、監修したけんせつ小町委員会の委員さんだからこそのユニークな切り口かなと思いました。また、日建連会員会社の福利厚生制度を、14社ほど集めて細かく対比表にすることで、各社の人事の方が自分の会社の福利厚生の制度を更新するときに他社を参考にできるようにしています。これらも全てホームページに公開しています。

福利厚生制度の整備とWEBの活用

—福利厚生の「使いやすさ」についてはいかがですか?

本田様:会員企業内では、福利厚生制度の整備が出来つつあります。一方で、「制度はあるけど使われた前例がない」「どうやって申請すればいいのかわからない」「この名前では申請しにくい」など、制度の“使いづらさ”などの運用が大きな課題になっています。制度を充実させるだけではなく、社員にしっかりと活用してもらえるような風土・雰囲気を作ることで社内に浸透させることも非常に重要です。そういう点を踏まえて、けんせつ小町委員会が主催するけんせつ小町セミナーを定期的に開催しています。女性の活躍だけではなく、男性管理職向けのセミナーや無意識の偏見、アンコンシャスバイアス、自己肯定感を高めるセミナーなどを、現在は年2~3回ほどWEBで30人程度のグループワーク形式で行っています。以前は対面でやっていましたが、コロナ禍以降はWEBで開催しています。全国各地からも参加でき、参加者側も満足度が高まり、主催側も柔軟にできるようになりました。

また、昨年の2月に初めてけんせつ小町工事チーム同士の交流イベント「けんせつ小町サミット」を開催しました。直近1年間でチームに登録してもらった中で、非常に面白く興味深いチームを招待して、WEB上で活動を発表してもらいました。また、実際に質疑応答や対話をしていただきました。現場内では女性の割合は少ないので、現場では孤立してしまうケースもあります。こういうイベントやセミナーを行うことで、会社を超えた女性同士のつながりを作っていくことも重要だと実感しています。

—700名参加ということで、大変多くの方が参加されたのですね。

本田様:多くの方に参加いただきました。また、日建連の会員は元請けの会社が中心で、施工監督、設計などの技術の方が多いのですが、今後は、技能者である現場職人の方にフォーカスしていきたいと考えております。

去年、YouTubeチャンネルを立ち上げました。職人の中にはSNS上でインフルエンサーの方もいるので、そういう方とコラボして、新しい切り口でいろいろやってみています。業界内向けだけでなく、業界外、特に若い方、学生にも、けんせつ小町を知ってもらい、建設業界って面白いんだろうなと知ってもらうことを狙ってますね。他には現在、けんせつ小町の新しいグッズを作ったり、仮囲い用の看板を立てたり。看板も、今後は新しいイメージで全部変えていく予定です。

あとは見学会をやっています。単なる見学会とは違い、保護者を含めて開催しています。親近感がわく、安心できると好評です。

―コロナの為に見学会が開催できなかった時期もありましたね。

本田様:教科書会社の東京書籍様からけんせつ小町について取材したいというお話を3年前くらいにいただきました。東京書籍様が運営する日本最大級のキャリア教育サイト「EduTownあしたね」の中に、けんせつ小町を特集したコンテンツを一緒に作成しました。キャリア教育の観点からの、小中学生に、けんせつ小町をきっかけに今の建設業界を知ってもらう良い機会になると考えています。

その後、コロナ禍では、初の試みとしてオンラインによる建設現場の見学会を東京書籍様と組んで開催しました。これも現場のレポーターを女性監督の方にお願いしております。参加者のアンケートの結果を見ると、女性の方が、意外性もあり親近感がわく等の声も多いですね。

今の時代は、WEBやSNSでPRするのが主流です。特に若い人はWEBですし、こういうWEB特集記事を作るには、そういう狙いがあると思うんですけど、その辺含めてYouTube「けんせつ小町チャンネル」やInstagramを、今後も積極的に活用していきたいと考えております。

「ちゃくちゃく」にこめた想い

本田様:昨年策定した新しいけんせつ小町のタグラインである「ちゃくちゃく」は、「誰もが働きやすく、働き続けたい業界を目指す」というけんせつ小町活動のミッションを表現しております。けんせつ小町の活動は女性のためだけではなく、誰もが働き続けられる業界の目指すことを業界内に浸透させ、更には業界外の方々に伝えていくことが狙いです。

そこでリブランディングっていう形で今回「ちゃくちゃく」のタグラインやステートメントを作って、けんせつ小町のデザインイメージを一新しました。

ー素敵なデザインですね。未来にむかって「ちゃくちゃく」と進んでいる印象ですね。

本田様:そうですね。これは推進したリーダー達の想いを乗せています。この中には女性という言葉を一言も使っておりません。未来に向けて着々と進んでいく。こういう活動って、やっぱり1年2年で花が咲くものではないので、5年10年と続けていくことで、ようやくやってきた意味や意義がみえてくる。こうした想いも「ちゃくちゃく」という言葉に込められています。建設業自体、全ての建造物は着々、一歩一歩作地道につくるしかない。そのあたりも「ちゃくちゃく」という言葉に含めています。

「ちゃくちゃく」を周知する

ーありとあらゆることをされていらっしゃいますね。YouTubeもすごく再生回数が多い。思いつくことを全て取り入れて、そういうアプローチの仕方を全部して、中にも外にも周知してらっしゃるのですね。

本田様:女性の委員さんは積極的で、こういうの試してやってみよう、とか、さまざまな意見やアイデアを主体的かつ前向きに示してくださるんです。また、目的を達成するための手段に対しては、柔軟にやればいいんじゃない、というところもあります。そういうところで団体という比較的硬い組織の中で、機動力や柔軟性が高まったことが、新しいカタチのアウトプットに繋がっている面があるのかな、と思います。

ー社会から取り上げられたり、評価されれば、女性だけではなく男性も評価してくれそうです。

本田様:特に20~30代の男性は感覚的に、今、女性の皆様達が言っていることに、スッと共感してもらえるのではないかと思っています。ただ、年齢が上になればなるほど、ジェンダーギャップがあり違和感が大きくなる印象を受けています。

ライフイベントと女性

ーライフイベントと仕事の両立についてはどのようにお考えでしょうか。

本田様:非常に重要な課題です。現場は拘束時間が長く、肉体的な負荷も大きいです。育児、出産のときに現場監督をやるっていうのは物理的には難しい部分もあります。たとえ職場の理解があったとしても厳しいです。それで内勤への異動やお休み入って、内勤から復帰するんですけど、そこから現場に戻るっていう方々はまだ、少数ではないでしょうか。じゃあどうすればスムーズに現場に復帰できるかが課題です。

ー当事者の女性の方たちには、現場に戻りたいっていう気持ちもあるんですよね?

本田様:女性の委員達と実際にいろいろと対話してみて分かったのですが、彼女たちは施工に携わり、現場監督をやりたくて建設業界に入っている人が多数います。会社としてはライフイベントを考慮して内勤にするんですが、実はそこに課題があります。建設業界、現場が好きとか、こういうことやりたくて入ってきたっていう技術系の女性の方たちはそのために大学を卒業して、勉強して資格をとってきたわけです。そういう方が、現場をやりたかったのに、ライフイベント等の事情で内勤になります。その後、再度、現場に復帰する機会をどうやってつくるか、ライフイベントの最中でも現場でも働き続けられる環境や風土づくり。そこが今後、働き続けられる業界を目指す上でメインの大きな課題ですよね。

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