誰もが働きやすい、働き続けられると思われる業界を目指してーけんせつ小町(後編)
Asian workers having a meeting at the construction site

建設業で働くすべての女性の愛称「けんせつ小町」。
建設現場で働く技術者・技能者、土木構造物や建物の設計者、研究所で新技術を開発する研究者、お客様とプロジェクトを進める営業担当者、会社の運営を支える事務職など、活躍の舞台は多岐にわたります。

今回、女性活躍推進の一路として一般社団法人 日本建設業連合会企画調整部の本田様にインタビューをさせていただきました。

不妊治療へのハードル

ー私たちは不妊治療のサポートをしてるんですけど、妊娠や結婚、不妊治療については、現場でどのように上司にお話しされているのでしょうか。

本田様:あくまで、一個人的な印象ですが、言えていない方は多いのではないでしょうか。特に上司に直接言えない人たちも山ほどいる。誰に相談すればいいかって悩んでいる方も多いんじゃないかなと思います。

例えばある大手建設会社では、本社の人事に現場監督出身の女性がいます。彼女はいろんな現場を回って、日頃から様々な人間関係を作っています。なにかあったら私に言ってね、と現場の方々に声をかけることを地道に行っている。これも非常に大事なことで、ただ形式的に相談窓口を作っても、そこには電話しにくい、なんてこともあると思います。

不妊治療に関しては、潜在的に山程あると思います。誰に言い出せばいいのかわからないし、どこに相談すればいいのかわからない。逆に相談したところで、会社組織を変えることができないから、諦めてしまう。それで自分の仕事を変えない限り、どうしようもないという八方塞がりになってしまう人も潜在的にたくさんいるんじゃないですかね。

ーそうですよね。最新のデータでは不妊治療を受けている夫婦は4組に1組です。ざっと考えても結構な数が社内にいてもおかしくないと思います。確かにどこに言ったらいいかわからないとか、ありますよね。

本田様:会社に知られたら、まわりに知られちゃうんじゃないかという恐怖心もあるはずです。難しいですよね。制度が充実した大手企業になると、窓口を外注に出して組織として解決に取り組んでいます。でも組織立って不妊治療に取組むことができていない企業もまだまだあります。不妊治療については、今後の課題として、日建連として好事例などの情報を共有しつつ取り組むこともあるので、そのときは皆様のお知恵を貸して下さい。

ー他にも課題があるので優先順序が下になってしまう、ということですね。

本田様:潜在的な悩みは不妊治療以外にもあります。誰もが働き続けられるというテーマを掘り下げると、取り組むべき課題は山ほどあり、根本的にはその辺は繋がっていると思います。

制度をつくるだけでは解決できない

本田様:例えば、土木や建築の施工監督は経験工学で、新人でいきなり何でもできるすごい人って現れないんです。10年近くやった経験っていう部分が大きい業種です。だから、20代の早い段階で育児出産等のお休みに入っちゃうと、経験のパーツが揃ってないから、そのまますぐに現場に戻れない。また、自分の後輩の方が経験豊富な状態。長期の休みを繰り返しちゃったりしたら、入社年次に比べまわりと経験にギャップが生じ、余計に復帰しづらくなる。こんな話もあるとは聞いています。

逆に30くらいまでにいくつか現場や複数の仕事をやる。そうするとそれなりに経験値が高まっている。そういうタイミングであれば、数年現場を離れてても、内勤で違う経験を積み、現場に戻ることもできたという例も聞きます。でも、この部分は個人キャリアプランや意向を踏まえた柔軟な制度運用がこれまで以上に会社組織側に求められるんでしょうね。

トップランナーが語る建設業界での女性の立場の難しさ

ー同じ女性であっても、皆が皆子供が欲しい訳ではないし、皆が皆ライフイベントと両立したいと思っている訳じゃないですよね。それは男性も同じです。同僚から「私は育休も産休も取らずに頑張ってる、あなたの穴も埋めているんです(あなた早く帰るわね、休むわね)」というもいるかな、と。男性だけでなく同じ女性をどうしていくのか。そのあたりどうですか。

本田様:これに関しても直接聞かせていただいた具体的なお話が二つあります。

ひとつめは、あるゼネコンにトップランナーの女性がいまして。自分は今、会社の中でリーダーとして後輩の育成の役割を与えられている。会社の事情や社会の状況がわかるからやるけれど、本来は技術者として仕事がしたい。これまでも男性が多い中でもいきいきと仕事ができたと言ったのを聞いて、そういう考えがあるんだな、と気づきを得ました。

もうひとつは、あるリーダーが他業種の講演で講師として参加したときの話です。リーダーの話では、現場に同じ年代の女性がふたりいて、ひとりは旦那さんが自由業だから結構テレワークで自由がきくけど、もう片方は旦那さんが同じ施工監督。そこで同じようなルールを作っても、片方にとってはいいんです。例えば旦那さんが自由業の方のほうにとっては使いやすい。けれど、もう片方のほうには夫婦ともに現場監督で家を空ける時間も多く、その制度をほとんど活用できない。その講演を聴いていた他業種の人たちから、制度の話を質問されて、かなり突っ込んだところまで聞かれたんです。そのとき、講師だったリーダーの方は、制度はもちろん必要だけど、その柔軟な運用や個々人にあわせて適応させていくことの方が重要であると回答していました。簡単にあっちを立てるとこっちが立たず、じゃないけど、色んなケースがあるから、ただ制度をつくって、それでおしまいだと逆に想定外の副作用が出るよね、ということですね。

これからの課題

ーおっしゃるとおりだと思います。職場から見たら同じに見えるけれど、その人のパートナーの仕事であったり、家族構成であったり、サポートする家族が回りにいるか、などで変わってきます。その人にとってはいい、だけど、他の方にはちょっと、ってところはありますよね。

本田様:その辺はどうやって柔軟に運用していくか、これまで以上にコミュニケーション、対話が必要になると思います。特に男性側、管理職も変わらなきゃだめなんだな、って。昔からの評価だけの年一回の面接ではなく、普段からのコミュニケーションは大事ですよね。けんせつ小町委員会で会員企業向けの男性管理職向けのセミナーを主催してわかってきたんですけど、男性の「聴く能力」を伸ばせば、まだまだコミュニケーションの形は良い意味で変わると実感しました。単純な報連相ベースではなく、普段からのちょっとした声がけ。傾聴を意識して相手の話を聴いた上で対話する、っていうことがもっとあたりまえになってもいいかもしれません。この課題を克服するには、男性側、管理職側の意識を変えなきゃならない、っていうのも大きな課題かなって思います。

ーすばらしいです。

本田様:いえいえ、まだまだ課題は山積みだな、って感じです。皆様からももっと学ばないといけませんし、これからもけんせつ小町の活動を応援してください。

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