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「マミーブレイン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?日本語では「産後ぼけ」と言われたりもします。一般的には、産後に記憶力や集中力や判断力が低下したように感じる現象のことを指すようです。この現象は医学的にも証明されているものなのでしょうか?今回はマミーブレインについて詳しくご説明していきます。
マミーブレインの症状ってどんなもの?
記憶力や集中力、判断力が低下したように感じる現象が起こります。具体的には、物忘れがひどくなった、言葉が出てこない、人の話や文章が頭に入ってこない、同時に複数のことができなくなった、気づいたら時間が経っていてぼーっとしてしまうことが増えた、などがあります。
マミーブレインって、何が起こっているの?
1. 脳の萎縮
妊娠前と妊娠後の脳を比較した過去の研究では、妊娠によって脳の灰白質という部分が小さくなることが報告されています。脳の灰白質の部分は、中枢神経組織の中で神経細胞が集まっている領域を指します。情報の選別をしたり、記憶の処理を行ったりなど重要な役割を担っています。では、この灰白質が小さくなることがマミーブレインの原因なのか、というと実ははっきりとはわかりません。脳の灰白質が小さくなる、という現象自体が全て悪いことなのかはないからです。赤ちゃんの脳にも同じ灰白質の縮小が起こっていることがわかっており、灰白質の縮小自体は産後の女性に限らず起こっていることなのです。一方で、加齢によって灰白質が萎縮し続け灰白質が小さくなりすぎると判断力や記憶力が低下していくことも研究でわかっています。
様々な見解をまとめると、脳の灰白質の縮小が妊娠に際して起こっていても、それがマミーブレインの直接的な原因だと断定するほどの研究結果はまだなく、今後の研究に期待される段階といえるでしょう。
2.育児による睡眠不足
妊娠後期に入ると、お腹が大きくなり寝づらくなったり、体内の変化としても「エストロゲン」というホルモンの分泌が増加し、眠りが浅くなる傾向があります。出産をすることで身体の変化による寝苦しさも落ち着き、ホルモンの影響も少なくなる…と考えるかもしれませんが実は産後も睡眠不足になる要因はたくさんあります。新生児〜生後3ヶ月ごろまでは赤ちゃんは昼夜の区別がついていないため、夜中でも2〜4時間おきの授乳や、おむつ交換、寝かしつけなどに対応することがほとんどです。生後3ヶ月を過ぎると、昼夜の区別がつき夜通し寝るようになる赤ちゃんもいますが、半数は夜中も授乳が必要だったり落ち着いていたと思ったら急に夜泣きが始まるようなこともあり妊娠期を終えても睡眠時間を確保することは周囲の協力がないと難しいでしょう。
睡眠には身体の回復、脳の休息、記憶の整理の役割があります。2種類の睡眠があり、浅い眠りはレム睡眠、深い眠りはノンレム睡眠と呼ばれます。
レム睡眠
睡眠全体の約25%を占める。体の睡眠とも言われ、筋肉の緊張がほぐれる。
ノンレム睡眠
睡眠全体の約75%を占める。記憶の定着や情報整理、感情の抑制に関与する。
赤ちゃんのお世話をしていると、このレム睡眠とノンレム睡眠のサイクルが乱れやすくなります。その結果、レム睡眠が不足すると体の疲れが取れず、ノンレム睡眠が不足すると脳の疲労が回復しにくくなり、新しい情報の整理や感情のコントロールも難しくなります。

3.マルチタスクによる負荷が大きい
「タスクスイッチングコスト」という言葉をご存知でしょうか?これは、複数のタスクを切り替える際に発生する時間やエネルギーの消費、精神的な負荷のことを指します。マルチタスクを続けることで、この負荷が蓄積し、集中力の低下や疲労感につながると言われています。心理的な観点からも、一つのタスクに集中したい時に他の情報が入ってきたり、中断して別のタスクを優先しなければならない状況が続くと、常に緊張状態を強いられることになります。
育児に当てはめて考えると、赤ちゃんの一つの行動で全ての優先順位が変わり、やっていたことが中断されることが多々あります。その結果、家事や育児が普段の何倍も時間がかかり、一日を振り返ると何も進まなかったと感じる日も少なくありません。このように「一つのことに集中できない」「何度も中断される」という状況が慢性的に続くことで、精神的にも自己肯定感の低下や育児や家事への困難感を抱くことにつながります。赤ちゃんといる時はマルチタスクを要求されるだけでなく、赤ちゃんの安全にも配慮する必要があるため、長時間の集中力が必要となり精神的に緊張状態が高まります。赤ちゃんが寝て自分も少し休める時間ができても、過緊張にあった身体と心がすぐにほぐれることは難しく、結局休めないまま束の間の休息時間が終わってしまうこともあります。このようにマルチタスクが続くことで集中力の低下や疲労感、過緊張状態につながる上に、消化不良な日々により自尊心の低下や無力感を抱きやすくなるのです。
マミーブレインの対応方法は?
1.育児を任せて休む時間を作る
マミーブレインの原因について考えられているものとして、睡眠不足やマルチタスクによる疲労などがありました。脳の萎縮に比べて、これらの原因に対しては休息を取るという方法で解決ができる可能性があります。先述したように、過緊張状態に置かれている場合だと数時間の休憩時間をもらえたとしても心から休むことが難しい人も多くいます。可能ならば、パートナーや家族の休日に合わせて赤ちゃんや家事とは離れられる環境に身を置いて休むことができると緊張状態も和らぎ身体や心を休められるでしょう。家族に頼ることが難しい人は、産後ケア施設を利用することもおすすめです。宿泊できる施設や、日中に一時利用できる施設があります。施設には助産師や看護師がいるので、赤ちゃんを預けて自分は個室で休むことができます。赤ちゃんのお世話だけでなく、お母さんの食事も出てくるので自分の身の回りのことも気にせず過ごすことができます。施設の助産師や看護師に授乳や育児の相談をすることもできるので子育てでの困りごとなどがある時には気軽に話してみてくださいね。家を離れることができない、という方はベビーシッターを利用したり家事代行を利用する方法もあります。
2. 大切なことはメモに残したり、リマインダー機能を使う
育児をしていると、急に違うことをしなければいけなくなったりやっていたことが中断されてしまう…というのはよくあることです。次のやるべきことに移る前に、覚えておかないといけないことがある場合にはスマートフォンや紙でのメモを活用しましょう。他にも、子どもの予防接種や保育園見学・申し込みなどは時期が決まっていたり、時間に配慮が必要だったり、思い出した時にすぐできるものではないことが多々ありますよね。そんな用事には、リマインダー機能がおすすめです。リマインダー機能では、日にちや時間を指定して通知を設定できるので数ヶ月先の用事でも忘れにくいですよ。
3. 周りの家族と予定を共有しておく
リビングのカレンダーに予定を書き込んだり、カレンダーアプリで予定を共有したりすることで、第3者にも情報をシェアしておきましょう。リビングのカレンダーなど、目につくところに予定を書いておくことは忘れていたとしても思い出すきっかけになることもあります。他には、毎朝「今日は何時に〜があるね」などとパートナーと予定を話すことを習慣化することで、もの忘れの予防だけでなく、パートナーと子どものことについて話すきっかけにもなりますよ。自分1人で子どものことを抱え込むことは、育児の責任を1人で背負い込むこととなりプレッシャーを強く感じてしまったりパートナーとの育児への温度差を感じてしまったりすることに繋がりやすいです。スケジュールを共有することで、パートナーへも育児の内容が見えやすくなり夫婦ともに育児に参加しやすい環境づくりになりますよ。
まとめ
今回はマミーブレインについて詳しくご説明しました。マミーブレインは多くのお母さんたちが自覚し悩みを抱えている症状です。周囲の人はマミーブレインについてからかったり責めたりするのではなく、お母さんの負担が少なくなるような家事・育児への参加や、物忘れが少なくなるような日常の工夫を働きかけたりしてお母さんをサポートしていきましょう。
