【実例紹介】企業におけるプレコンセプションケア

2019年12月に「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(以下、成育基本法)が定められました。成育基本法は新生児期から大人になるまでの期間の各段階で必要な支援が受けられるようにすること、社会的経済的状況にかかわらず安心して妊娠・出産・子育てができるような環境が整備されることを推進しています。この法律をもとにした成育基本方針においてプレコンセプションケアの体制整備が提起され、妊娠・出産・不妊等にかかる様々な取り組みが行われることとなりました。

出典:厚生労働省「プレコンセプションケアを含む性と健康の相談支援について

しかし、日本ではプレコンセプションケアの認知度はまだまだ低く、今後さらなる取り組みの拡大が不可欠です。本記事では、プレコンセプションケアについて基本的な知識から、日本での現状や企業における取り組みまで幅広くご紹介します。

プレコンセプションケアとは

コンセプションとは受胎のことで、プレコンセプションケアは直訳すると受胎前管理となります。米国疾病管理予防センター(CDC)が2006年に提唱し、世界保健機関(WHO)が「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な行動介入を行うこと」と定義したのが最初です。

日本においては生育基本法に基づく成育基本方針(令和3年2月閣議決定)において「女性やカップルを対象として、将来の妊娠のための健康管理を促す取組」と定義されています。 プレコンセプションケアによって安心安全な妊娠・出産・子育てを推進することは、人口減少が予想される日本において重要な政策課題でもあります。

世界の現状

日本ではまだ本格的な取り組みが始まったばかりのプレコンセプションケアですが、海外ではどうなのでしょうか?プレコンセプションケアの起源であるアメリカと、性教育先進国であるノルウェーについてご紹介します

アメリカにおけるプレコンセプションケア

プレコンセプションケアの起源であるアメリカでは、医療者だけでなく教育分野や地域、企業などの各方面での連携や改革が実現しています。

一方で、多様な人種や言語の壁に阻まれ、妊娠を希望する女性やカップルなどに実際にその取り組みが届いているかについては、充分でないという指摘もあります。 

スウェーデンにおけるプレコンセプションケア

スウェーデンでは「現在はまだ妊娠を考えていない男女」にまで対象を広げたプレコンセプションケアが行われています。具体的には、避妊相談外来を利用した男女に助産師が将来の妊娠や不妊治療に向けた情報提供などを行っていて、利用者の知識の向上につながっています。

日本の現状

日本では先述の通り、2019年に成育基本法が制定され、2021年に基本方針が示されました。それに基づき各自治体や関係機関が中心となって以下のような様々な取り組みが行われています。

  • プレコンセプションケアセンターにおける検査や相談
  • 全国のクリニックにおけるプレコンセプションケア外来の設置
  • 市町村単位での広報や相談窓口の設置

日本では妊娠期から出産までの支援や周産期医療が優れており、母子の死亡率の低さは先進国の中でもトップです。一方で不妊治療に悩むカップルの数は増加しています。不妊治療に対する支援だけでなく、不妊の原因を取り除くための支援であるプレコンセプションケアの必要性が高まっています。

会社におけるプレコンセプションケア

プレコンセプションケアは医療や地域において拡大してきていますが、会社においてはどうなのでしょうか?会社がプレコンセプションケアを行う必要性や利点、また実際にプレコンセプションケアを導入する際のポイントをご紹介します。

プレコンセプションケアは医療や地域において拡大してきていますが、会社においてはどうなのでしょうか?会社がプレコンセプションケアを行う必要性や利点、また実際にプレコンセプションケアを導入する際のポイントをご紹介します。

会社でプレコンセプションケアを行う意義

女性の初婚年齢や第一子の出産年齢は年々上がっており、出産前の妊娠を希望する期間(プレコンセプション期間)は長くなっています。また、女性の社会進出が進んだことで、プレコンセプション期間の女性の就業率が年々高まっています。そのため、就業の場においてのプレコンセプションケアは、支援を広げるにあたって大きな効果を発揮すると考えられます。

会社がプレコンセプションケアを行う利点

会社がプレコンセプションケアを行うことによる利点は、対外的なものと対内的なものがあります。

・対外的な利点

プレコンセプションケアは、国際的に課題となり、国内でまさにスタートを切ったばかりの先進的なヘルスケアリテラシーの取り組みです。そのような取り組みに注力することは、企業イメージの飛躍的な向上につながるでしょう。妊娠出産を考える多くの優秀な女性の人材確保にもつながります。

・対内的な利点

プレコンセプションケアによって妊娠・出産・子育てを含めたキャリア形成を行っておくことで、優秀な人材の急な退職や休職による生産性の低下が防げます。経済産業省のデータによると、この先労働人口の減少は加速すると考えられ、妊娠・出産・子育てなどを理由にした人材の喪失は企業にとって大きな損失となります。

また、当事者の女性だけでなく管理職や一緒に働く仲間の妊娠・出産・子育てへの理解が深まることで、女性が働きやすい環境が整い、生産性が向上することも予想されます。

会社によるプレコンセプションケア導入への動き

企業によるプレコンセプションケアの実例はまだ少ないですが、企業向けソリューションの開発や実証実験が進められています。

企業向けソリューションの実例

助産師によるセミナー

助産師によるプレコンセプション期間の女性に向けた対面のセミナーを行うことで、妊娠に向けた知識の定着が見込まれます。

不妊治療と仕事の両立に関するアンケートの実施

アンケートによって会社独自の課題を明確にすることができます。男性社員やプレコンセプション期を支える50代以上の世代も気軽に参加できる取り組みです。

オンラインセミナーの実施

不妊治療や妊活、女性の健康など多様なセミナーを行うことで幅広い知識の供給ができます。また、オンラインということでプライバシーに配慮することもでき、男性社員の受講のハードルも低くなります。

相談窓口の設置(オンライン・LINEなど)

社内の仲間には相談しにくいことを気軽に相談できるようになります。オンラインツールでの相談を取り入れているケースもあり、リモートワーク率の高い企業や、より内密に相談したい場合に有効です 。

自宅検査キットの配布

卵巣年齢を調べることができるAMH(アンチミュラリアンホルモン)を測定できる自宅検査キットや、子宮内フローラ検査キットを配布しています。病院にくほどではないけれど、気になる社員の方にライフプランを検討するきっかけを提供したいときに有効です。(ファミワンではF check, 子宮内フローラCHECK KITをご提供しています)

導入のポイント

職場におけるプレコンセプションケアは、プレコンセプション期の女性だけでなく管理職や男性にも対象を広げて行うとより効果的です。また、妊娠・出産・子育てを考慮したキャリア形成を支援できるような仕組みをつくる必要があります。

一方で、内容によっては配慮が必要なこともあります。産婦人科医によるフォロー体制や外部の相談窓口を設置するなど、プライバシーが守られるような取り組みも併せて行うと良いでしょう。

プレコンセプションケアの抱える課題

プレコンセプションケアは日本ではまだ始まったばかりの取り組みです。今後の課題をご紹介します。

プレコンセプションケアへの認知度の低さ

妊娠や出産のタイミングでの妊産婦へのサポートや不妊治療への支援が年々進んでいる一方で、プレコンセプションケアについての認知度はまだまだ低く、「将来の妊娠」について具体的に考えることは一般的ではありません。社会全体が当然のこととして取り組めるよう、地域や会社などあらゆる機関や人が連携して認知度向上のための活動を行う必要があります。

プレコンセプションケアの対象の狭さ

日本ではプレコンセプションケアを「女性やカップルを対象として、将来の妊娠のための健康管理を促す取組」(2021年 成育基本方針)と定義しており、その対象は「女性やカップル」となっています。女性の社会進出や核家族化が進む中で、妊娠した際に仕事との両立や孤独感で悩む女性は増えています。妊娠・出産・育児を職場や社会全体の責任としてとらえ、多方面から支援する必要があります。そのためにも、プレコンセプションケアは「女性やカップル」に対象を限定せず、会社や地域で広く知識を共有していく必要があるのです。

プレコンセプションケアの内容の充実

プレコンセプションケアは妊娠・出産・子育てに必要な知識や医療面のサポートに重点がおかれていますが、キャリア面でのサポートにも範囲を広げることが重要です。妊娠出産を見据えたキャリア形成を行うことで、女性のキャリアの中断や喪失を防ぐことができます。

まとめ

プレコンセプションケアの取り組みはまだ始まったばかりです。特に会社における取り組みはプレコンセプションケアの充実に関して大きな成果が見込まれます。また、企業向けソリューションの開発は確実に進んでいます。各企業もプレコンセプションケアという視点を取り入れる準備を進めていきましょう。