専門家からのアドバイス! ーストレスチェックの活用についてー

ストレスチェックとは

厚生労働省発表の脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況によると、2007年度(平成19年度)の報告以降、労災申請において脳・心臓血管疾患による請求よりも精神疾患による請求数が上回るようにもなり、働く人の心の健康保持増進は日本社会において重大な課題となっています。そのような中、2015年の労働安全衛生法の改正•施行に基づいて50人以上の従業員がいる事業所にストレスチェックの実施が義務づけられました。企業には従業員のメンタルヘルス管理を重視し、問題の早期発見や適切な対応を行うことが求められています。

ストレスチェックの実施方法

既にストレスチェックを導入している企業は多いと思いますが、改めて実施方法について確認していきましょう。ストレスチェック実施については、厚生労働省が具体的な指針を示しています。この指針では実施基準や手続き、結果の取扱などが記載されており、企業はこの指針に基づいて適切にストレスチェックの実施を行う必要があります。なお、ストレスチェックの実施者についても定められており、医師・保健師・特定の研修を受講した看護師や公認心理師などが実施者となることができます。大多数の企業では産業医が実施者となることが多いかと思いますが、ストレスチェック委託先の外部医師が実施者となるケースもあります。人事担当者や責任者では実施者にはなれない点は留意が必要です。

また、ストレスチェックは職業性ストレス簡易調査票の57項目版が厚生労働省によって推奨されていますが、この職業性ストレス簡易調査票には23項目版や80項目版もあり、自社の状況にあった内容はどれか検討する必要があります。なお、57項目版は使う企業も多く、統計情報も揃っているので初めてストレスチェックを実施するという企業などは57項目から始めるといいのではないでしょうか。厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムダウンロードサイトには実施にあたって必要な資料やテンプレートなどがまとめて掲載されているので一度確認されてみるのもいいでしょう。

ストレスチェックの実施にあたり人事部門が検討しておくこと

ストレスチェック実施においては、集団分析実施も推奨されているため、どの組織区分で分析したいかを予め衛生委員会などで検討しておくことも重要です。例えば、所属部門別での分析のほか、新卒入社か中途入社か、在宅勤務者か出社勤務者か、管理職と一般職、のようにクロス分析で出す結果をイメージしておくことで、実施後の分析もスムーズになります。ストレスチェックは従業員にとっては自分の心の健康状態を把握できるいい機会となりますが、企業側にとっても組織における課題を捉えていく貴重な機会となります。

ぜひ、ストレスチェック後の集団分析をしたことがないという企業においては、組織区分別の分析をされることをお勧めします。

ストレスチェックの事後措置

ストレスチェックの目的の一つは従業員本人が自身のストレス状態を把握することになりますが、高ストレスという判定になった従業員から面接希望の申し出があった場合は、申出から1か月以内に医師による面接を実施しなければなりません。よって、ストレスチェックの担当者は面接希望の申し出有無について確認の上、必要に応じて産業医や委託先医師などとの面接日程の調整が必要です。その際、本来ストレスチェックの結果を企業側は見てはいけませんが医師面接希望時は結果を企業側に開示することに従業員が了承しているため、その取扱いにも十分な注意が必要です。

また、高ストレス判定でも医師面接を希望しないケースもあります。そのようなケースを想定し、ストレスチェック結果のフィードバック時に社内相談窓口や会社で提携しているEAP相談窓口の周知を行うこともメンタルヘルスの予防・早期発見にとって重要です。

ストレスチェックの集団分析の実施

職業性ストレス簡易調査票の57項目版におけるストレス要因については、心理的な仕事の量的負担、心理的な仕事の質的負担、身体的負担、コントロール、技術の活用、対人関係、職場環境、仕事の適性度、働きがいの尺度が設けられています。これら項目別で分析をしていくことで、この部署では業務量がストレス要因になっているが、同じような業務をする別の部署ではコントロール(裁量度)が高く、ストレス値が低くなっている、などのような分析が可能になります。集団分析を行うことで、組織全体の傾向や課題を把握することにも繋がります。年1回のストレスチェック実施であれば、毎年同じ時期に行うことで経年での変化を追え、各種施策の効果検証を行うことも可能です。

まとめ

ストレスチェックは、日本の企業においてメンタルヘルス管理の重要なツールとなっています。単発で行うのではなく、継続的な評価と改善のサイクルを通じて、組織全体のメンタルヘルスの向上に取り組むことが重要です。従業員のメンタルヘルスの早期発見と適切なケアをすることで、離職率の低下や生産性の向上にも繋がります。ストレスチェックを通じて従業員のメンタルヘルスを促進し健康経営を実現していきましょう。

<参考資料>

労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル (令和3年2月改定)

脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について(平成19年度)