2024年6月20日、ファミワンは女性活躍推進セミナー「物流業界の女性活躍の実態と今後の展望~現状と企業の取り組み~」をオンラインにて開催いたしました。
ファミワンではさまざまな業界の女性活躍推進セミナーを開催していますが、今回は物流業界のパネリストをお招きして女性活躍推進の実態と今後の展望について皆さまと一緒に考える機会となりました。
パネリストには、フジトランスポート株式会社 執行役員 川上泰生さま、株式会社カーゴニュース 副編集長編集部長 石井麻里さまをお招きし、ファミワン代表看護師 西岡とともに講義とトークセッションをお届けしました。
本記事では「物流業界における女性活躍推進の実態と今後の展望」について講演いただいた株式会社カーゴニュース 副編集長編集部長 記者の石井麻里さまのご講演を一部抜粋してレポートいたします。
株式会社カーゴニュース 副編集長編集部長 記者 石井麻里様
2000年 物流業界紙に入社、2011年 株式会社カーゴニュースに転職、2013年~2014年 日本通関業連合会「通関業および通関士の今後のあり方研究会」事務局 2014年~2020年日本通関業連合会「女性通関士支援ワーキンググループ」事務局 2021年 NPO法人輸出入手続サポートファーム(EIPS)理事 2022年(株)イーシーエー取締役(非常勤)公認内部監査人(CIA)取得
物流業界の「ここが好き」
・レバレッジの効かない「等身大」の世界、
・「要領がいい人」よりも「真面目でコツコツやる人」が評価される世界
・働く人が「親切」「正直」「勤勉」
自分を育ててくれた物流業界に恩返しが「ライフワーク」に
物流業界最大の課題「人手不足」〜「ライフステージに合わせた働き方」の実現で解消できるのでは
「女性活躍」の定義は人それぞれです。「単に女性の数が増えること」「役員や管理職になること」だけが「女性活躍」だとは思っていません。「女性が、好きな仕事を自分の成長を感じながら、長く働けること」を「女性活躍」として捉えています。
物流業界では今まさに、女性活躍の機会が広がろうとしています。
物流業の女性比率は2割程度で、女性管理職の割合は、全業種で最低のレベルです。
また、物流業界が抱えている最大の課題が「人手不足」。「2024年問題」と言われていますが「働き方改革」により働く時間が制限され、約7割の企業が人手不足を感じているというのが実態です。
また、「1人あたりの負荷が大きい」「休みにくい」といった職場環境が離職につながりさらに人手不足に陥ってしまうという悪循環が発生しています。
男性と比べ一般的に女性のほうがライフステージの変化の影響を受けやすく裏を返せば、ライフステージの変化に合わせた働き方ができれば物流業界はもっと女性が働きやすい職場になり人手不足も緩和するのではないかと思います。
在宅勤務は不可能?「思い込み」を捨てた取り組みも
具体期には、働く「場所」と「時間」の柔軟性がカギになるかと思いますが、テレワークに関しては物流業界では1割程度に留まっています。
ドライバーや倉庫作業員などの現業職がテレワークできないことが背景にありますが、同じ職場の事務職でも、現場と事務職と不公平感が出ないようにしたいという社内事情もあるようです。
テレワークが進まない要因には「物流会社でテレワークは無理だ」という「思い込み」もあります。ただ、その思い込みを捨てれば「不可能が可能になる」こともあります。
一例としてあげますと、私が6年間参加した「女性通関士支援ワーキンググループ」が要望したことをきっかけに法改正がなされ、通関士(※)の在宅勤務が可能になった例がありますし、ある運送会社ではIT環境の整備により紙の伝票との突合せではなく顧客の出荷データをもとに、事務職が自宅でも運賃入力を行えるようにしました。在宅勤務でできる仕事を増やし現在は、伝票発行以外の事務作業は、ほぼ在宅でも行えるようになったそうです。自宅のパソコンをつなぎっぱなしにして、出勤者と在宅勤務者がいつでも顔を見ながらコミュニケーションをとれる工夫もしています。
(※)通関士:貨物の輸出入に際して税関に提出する書類を、依頼者のために審査したり、代わりに作成したりする輸出入に重要な職業。
ライフステージに合わせた働き方の実現と代替要員へのフォロー
とある調査では、就職活動でテレワーク制度の有無を重視する割合は約6割にのぼり、テレワークができない職種は学生に選ばれなくなりつつあることが分かっています。物流会社も在宅でもできる仕事を「探す・つくる・可能にする」ことが必要です。
男女ともに結婚・妊娠・出産・転居などライフステージの変化の中で、在宅勤務や時短勤務を希望する人は少なくありません。パートタイムなど短時間であれば勤務が可能、という人材も貴重な戦力と言えます。
在宅勤務・時短勤務に対する適切な「評価」は重要です。たとえば、時短勤務でも、フルタイムの人より多くの仕事をこなしている人もいるので、「時短勤務イコール少ない仕事しかできない」という固定観念を見直す必要もあるかもしれません。
一方で、誰かの産休・育休中にその仕事を代替している人へのフォローとして、国の補助金などを使った手当の支給も「しわ寄せ離職」を減らすには有効です。
物流業界に限らず人手不足を克服するには、「ライフステージに合わせた働き方の実現」と「代替要員へのフォロー」という両輪の取り組みが企業には求められると思います。
働き方改革は業務を見直すチャンス!
「2024年問題」「働き方改革」をきっかけに、物流会社は荷主の協力を得て業務を見直すチャンスが到来していると思います。
例えば、業務の負荷、非効率を減らすために「オーダーを前倒しで」「ファックスでなく、データで」「当日のオーダーには対応できない」といった要望を、荷主に伝えやすくなっています。
まずは業務の棚卸しを行い、本当に必要な業務かどうか見極め、それから業務の標準化、進捗の共有化を行う。ひとつの仕事を複数の人ができるようにし、急な不在でも引継ぎを容易にすることで、フレックスタイム制の導入もしやすくなると思います。
人手不足の物流業界で、「多能工化」はもはや不可欠です。物流会社の大半が「メンバーシップ型(※)」の雇用体系を採用していますが、多能工化の度合い、個々のスキルを可視化したり、「同僚へのサポート」に対して正当な評価を導入していくことも必要だと思います。
(※)メンバーシップ型:従業員の採用前に業務内容や勤務地などを限定せずに雇用契約を結び、雇用された側は割り当てられた業務に従事するという雇用システム
物流業界における女性活躍の展望
物流改善が企業の努力義務となり物流を利用する側、荷主にも「規制」が適用されることになりました。こうした背景から「物流企画関連の求人」が10倍以上に増えています。私はこれを「物流業界で女性の活躍が広がるチャンス」だと捉えています。
また、物流の課題解決のカギとなるのが「DX」です。DXというと理系をイメージしますが、プログラミング言語を知らなくても、業務アプリを開発できるツールも出てきています。生成AIの登場によりITを利用するハードルは低くなっています。ジェンダーや理系・文系に関係なく、物流業界でDX人材の裾野を広げていくべきだと思います。
物流業界で働く側に求められることとは
最後に、「働く側に求められること」についても触れたいと思います。個人的には、「想像力」がキーワードになるのではないかと思います。
物流業界で女性は未だにマイノリティで、出産・育児を経験する女性は更に少ないのが現状です。職場に育児と仕事を両立したロールモデルが少なく、孤独を感じやすいのではないかと思います。一方で、企業内では独身者へ転勤を課すなどの負担が寄りやすいのも事実です。
そこで必要になってくるのが「想像力」です。他人の人生に温かい関心を持つこと、他人事を自分事にすることです。育児、病気、介護など「フルで仕事ができない」状況は誰にでも起こりえます。「フルで仕事ができない人」、「その人の仕事を代替する人」が、お互いの立場への想像力を働かせることが重要だと思います。
会社の制度がたとえ100%完璧でなくても、働く側の意識次第で、制度を超えた「働きやすさ」は可能になると考えます。
やや精神論的にはなりますが、同じ職場で働く人同士が、「感謝」「寛容」「思いやり」の気持ちを持つことで、解決できることも多いのではないかと思います。「困っている人がいたら助けてあげたいと思う」「助けてもらったことにありがとうと言える」「それが自然にできる職場は、会社の制度がたとえ整っていなくても働きやすい」、そして「安心して、長く勤められる職場」です。
さいごに
会社に対して「働きやすい制度」を要求するだけでなく、働く側が、「働きやすい環境を、自分で作っていく努力」も必要だと感じます。
なお、働きやすい職場の風土をつくるのは、やはり「トップ」です。社員は、社長の鏡だと言われますが、従業員の心の持ち方、同僚への接し方に大きな影響を与えるのは、トップの価値観、評価軸ではないかと思います。