企業が健康経営に取り組む意義

健康経営とは?

「健康経営」という言葉をよく耳にするようになった頃より、幾分歳月が経ちました。いまさら聞けない「健康経営」を考えていきましょう。

「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営視点で考え、戦略的に実践することを目指すことを指します。企業が従業員の健康に投資することで、従業員の生産性や活力が向上し、結果的に企業の業績や株価が上がることになどつながると期待されています。

健康経営はどうして始まった?

1990年代にアメリカで生まれました。従業員の病気や怪我が増えることで医療費負担が経営を圧迫したことがきっかけです。過重労働による従業員の健康被害が社会問題化したということです。臨床心理学者のロバート・H・ローゼンが従業員の健康促進が企業の生産性向上につなげる「ヘルシー・カンパニー思想」を提唱しました。これをきっかけに広がっていきます。それまでの病気になってから医療費を支払う「疫病モデル」から、予防的健康管理を人的資本への投資と位置付ける「生産モデル」へ転換しました。健康な従業員が企業にもたらす収益力を鑑みて、企業と従業員がwin-winの関係を築いていくことはヘルシー・カンパニー思想の大きな柱になっています。

日本でもアメリカと同じように医療費の高騰は深刻な問題になりつつあります。加えて昨今の人出不足や簡単に離職していく現状に一石を投じる思想であるでしょう。日本では、2013年に「日本再興戦略」が閣議決定され、健康経営の概念が本格的に導入されました。さらに2017年には「未来投資戦略」が、また2019年には「成長戦略」が次々と閣議決定され、健康経営の推進が強化されてきています。「未来投資戦略」ではデータに基づいた健康づくりが推進され、「成長戦略」においては健康経営を後押しする仕組みが導入されました。今後についても日本政府は2030年に向けていくつもの施策を掲げています。一例としては、健康経営に自発的に取り組む企業を公開するなどして企業理念に組み込まれるように推進しています。

従業員の健康とは、身体的健康精神的健康社会的健康の3つを狙っていきましょう。身体的健康と精神的健康は健康・モチベーション維持につながります。また社会的健康とは、周りとの信頼関係の構築やコミュニケーションの活性化が見込まれます。このように従業員のウェルビーイングを目指していきましょう。

健康経営優良法人認定制度と健康経営銘柄制度について

健康経営を推進していく流れの中で制度に整えられたものを紹介します。健康経営優良法人認定制度と健康経営銘柄認定制度です。どちらも企業の健康経営の取り組みを評価する制度ですが、いくつかの違いがあります。確認していきましょう。

健康経営優良法人認定制度
とは、経済産業省と日本健康会議が実施する顕彰制度で、2016年に創設されました。選定は日本健康会議が行います。優良な健康経営を実施している法人を「見える化」することを目的としています。大企業を対象とした「大規模法人部門」と、中小企業を対象とした「中小規模法人部門」が設けられています。認定条件を満たし認定されると、「健康経営優良法人」のロゴマークの使用が可能となります。

健康経営優良法人認定制度の評価基準は、以下の項目です。

経営理念と経営者の自覚
 健康宣言の社内外への発信や経営者自身が健康診断を受診するなど

組織体制
 健康づくり担当者の設置や従業員の健康課題の把握と対策

制度・施策の実行
 メンタルヘルス対策やワークライフバランスの推進、健康増進や過重労働防止

評価と改善
 健康診断データの提供や保険者との連携

法令遵守とリスクマネジメント

 健康管理に関する法令の遵守

健康経営銘柄は、健康経営優良法人認定制度が幅広い企業が対象なのに対して、東京証券取引所に上場している企業のみが対象です。経済産業省と東京証券取引所が共同で選定しています。健康経営優良法人認定制度で認定された企業の中から特に優れた企業が選ばれます。健康経営推進の他にも投資家や求職者に魅力を発信する目的もあります。原則1業種1社が選定されます。認定難易度は高いとされています。

健康経営を目指す意義とは

 健康経営を実践していくことで企業にとってはどんなメリットがあるのでしょうか。 商品の値段が高くなり、円安がそれを後押ししている中、また深刻な人出不足の中で健康経営を推進していくことは組織を時代に合わせて開発するきっかけになるでしょう。健康経営をきっかけに方向性を変えて、従業員にとって働きやすく働きがいがあり、企業にとっても離職率を防げて生産性が高まることを目指すことは、企業力の向上につながるでしょう。期待される効果としては以下のものが挙げられます。

生産性の向上 健康な従業員のもと、業務効率が上がり、生産性が上がる

離職率の低下 従業員の欠勤や離職を減らせます

企業イメージの向上 健康経営に取り組むことで、企業の信用が増し、優秀な人材の確保につながることも予想される

・医療費の削減 従業員が健康になることで、医療費削減になる

具体的な取り組み方

企業によってさまざまな取り組みが行われていますが、まず何を実行する必要があるかという視点で必要事項を抑えていきましょう。

健康経営に関する理念の策定
 経営理念として健康経営に取り組むことを明文化し、社内外に示すことが求められています。

組織のおける体制づくり

 理念の策定が完成したら、次にそのための体制を整えておく必要があるでしょう。

 部門を新設する、総務部や人事部などの部署を活用するなど。

目標を設定する

 やみくもに進んでしまうと明後日の方向に進んでしまうこともあるでしょう。しっかりと開始時に目標を 設定しておくことも必要です。

具体的施策の実施

 立ち上げた部署内で、また幹部会で議論を重ねて決まったプランを実施します。例えば、「残業時間を○○時間以下にする」という目標を設定したとして、それを実施するには簡単にはいかないことも出てくることでしょう。そこからさらに実施に向けて議論を重ねながら調整していく必要があります。

施策に対する評価

 施策を一定期間実施後は、結果に対して評価を行います。そして次に整えるべきことを吟味し、また実行していきます。

 ここまで見てきたように、健康経営は企業にとっても従業員にとっても働くモチベーションを上げる効果があります。実践していくことで従業員の幸福度の向上と企業の生産性の向上が見込めます。ぜひ実践していきましょう。