
近年、従業員の健康経営を重視する企業が増える中で、「プレコンセプションケア」への注目が高まっています。
なぜ今、企業がこの取り組みに力を入れるべきなのでしょうか? それは、従業員の心身の健康を支援し、結果として企業の持続的な成長に繋がる多くの意義があるからです。
企業におけるプレコンセプションケアの目的
こども家庭庁においてプレコンセプションケア推進5か年計画~性と健康に関する正しい知識の普及と相談支援の充実に向けて~(令和7年5月 22 日プレコンセプションケアの提供のあり方に関する検討会)が提唱された。その中では企業においてプレコンセプションケアの啓発と相談窓口の拡充が言われている。
1. 従業員の健康とWell-beingの向上
プレコンセプションケアは、将来の妊娠を考える従業員だけでなく、全ての従業員のヘルスリテラシーを高めることに繋がります。自身のライフプランや健康状態について考える機会を提供することで、生活習慣の改善、持病の管理、感染症予防など、幅広い健康意識の向上を促します。
これは、性別や年齢に関わらず、従業員一人ひとりがより健康で充実した生活を送るための基盤となります。結果として、従業員の心身のWell-being(幸福度)が向上し、企業全体の活気にも繋がるでしょう。
2. ワークエンゲージメントと生産性の向上
健康な従業員は、仕事へのモチベーションが高く、集中力も維持しやすいため、ワークエンゲージメントと生産性の向上に直結します。プレコンセプションケアを通じて、妊娠・出産を安心して考えられる環境が整えば、従業員は将来への不安を軽減し、目の前の業務に一層集中できるようになります。
また、月経関連症状や更年期症状など、女性特有の健康課題に対する理解が深まることで、職場での相互理解が促進され、女性従業員が能力を最大限に発揮できる職場環境づくりにも貢献します。
3. 人材の定着と確保
現代社会において、多様な働き方やライフイベントへの対応は、企業が優秀な人材を惹きつけ、定着させる上で不可欠です。プレコンセプションケアは、従業員がライフイベント(結婚、妊娠、出産、育児など)とキャリアを両立できるよう、企業が積極的に支援する姿勢を示すものです。
これは、従業員にとって「この会社なら安心して働き続けられる」という安心感を与え、離職率の低下に貢献します。さらに、プレコンセプションケアに取り組む企業は、従業員を大切にする企業としてのブランドイメージを確立し、新たな人材獲得においても優位に立つことができるでしょう。
4. ハラスメントの防止とダイバーシティ&インクルージョン推進
プレコンセプションケアに関する正しい知識が社内で共有されることは、不妊治療や妊娠・出産に関する誤解や偏見を解消し、ハラスメントの防止にも繋がります。例えば、不妊治療中の従業員に対する不用意な発言や、育児中の従業員に対する無理解な対応などが減ることで、より心理的に安全な職場環境が醸成されます。
これは、性別、年齢、ライフステージに関わらず、全ての従業員が尊重され、安心して働けるダイバーシティ&インクルージョンを推進する上で極めて重要な要素です。
5. 社会的責任(CSR)と企業価値の向上
企業が従業員の健康とライフイベントを支援するプレコンセプションケアに取り組むことは、**社会的責任(CSR)**を果たすことにも繋がります。少子化問題が深刻化する中で、企業が従業員の妊娠・出産をサポートすることは、社会全体の持続可能性への貢献と言えます。
このような取り組みは、企業のブランドイメージや企業価値を高め、投資家や顧客からの評価向上にも寄与するでしょう。
企業におけるプレコンセプションケア実例4社
企業が従業員向けに実施しているプレコンセプションケアの取り組みについて、4社の事例をまとめました。
あいちフィナンシャルグループ
新入行員向けに、看護師による「次世代の健康知識を身につけよう!ーパフォーマンスを高く働くコツー」と題した研修を実施しました。この研修では、ヘルスリテラシー、プレコンセプションケア、不妊治療に焦点を当て、ライフプランについて考えるワークも取り入れられました。研修後のアンケートでは95.6%の参加者が満足し、今後のライフイベントとキャリアの両立、同僚や顧客への配慮に役立つと感じたとの回答が得られています。
山梨中央銀行行員向けプレコン研修
行員向けに不妊症看護認定看護師を講師に招き、プレコンセプションケア啓発セミナーを開催しました。セミナーでは、女性特有の健康課題に関する知識に加え、プレコンセプションケアの重要性をクイズやワークを交えて解説。ライフデザインのワークを通じて、キャリアとライフイベントの両立についても考える機会を提供しました。参加者の98.5%が満足し、自身の将来や生活習慣を見直すきっかけになったと回答しています。
大成建設
従業員への福利厚生として、「将来の妊娠に備えた健康管理について知ろう!全ての方に知ってほしい「プレコンセプションケア」セミナー」をオンラインで開催しました。セミナー受講者には、精液検査キットとAMH検査キットが無償で支給され、自身の妊孕性をセルフチェックし、未来と向き合うことを促しています。この取り組みは、女性活躍推進の一環であり、従業員が安心してキャリアを歩める風土づくりを目指しています。
大成建設プレコンセプションケアキット配布(AMH検査,精液検査)とセミナー
武蔵野銀行
新入行員向けに「将来のために正しく知ろう ープレコンセプションケアをはじめようー」と題したセミナーを開催しました。このセミナーでは、プレコンセプションケアを通じて心と体を整えることが、将来の選択肢を広げ、より納得のいく人生を選べることにつながると伝えられました。参加者はプレコンチェックシートを記入し、自身の現状や生活習慣を見つめ直す機会となりました。
企業におけるプレコンセプションケアの実施内容
実施内容は以下のものが挙げられます。
- セミナー、ワークショップ
- 動画
- 検査キット配布(AMH検査、精液検査)
- 専門家によるオンライン相談
セミナー、ワークショップ、動画などのインプットだけではなく、当事者として検査キットを使用し、検査後には専門家に相談できるという一つのフローを継続していくことが企業におけるプレコンセプションケアのあり方の新しい提案です。
最後に
プレコンセプションケアは、単なる福利厚生の一環ではなく、従業員の健康、企業の生産性、人材戦略、そして社会貢献にまで影響を及ぼす、多角的な意義を持つ取り組みです。未来を見据えた企業経営において、プレコンセプションケアへの投資は、計り知れないリターンをもたらす可能性を秘めていると言えるでしょう。ぜひみなさまもその一歩を踏み出しませんか。