座りっぱなしの毎日に要注意!働く世代を守る、座りすぎ対策― パソコン時代の身体を守るために ―

夏真っ盛りの今、外に出れば強い日差しと厳しい暑さ。少し歩いただけでも汗をかき、今日は運動するより、涼しい室内でのんびりと過ごしたい!と思う方も多いのではないでしょうか。やがて夏が終わり、秋になると仕事が忙しくなり、さらに寒い冬がやってくると、外出や運動の機会はますます減りがちです。

一方、私たちの仕事は以前より身体を動かさなくなってきています。パソコンで資料を作成し、オンライン会議に参加し、メールを返信し、スマートフォンで連絡を取る。仕事が終われば、電車や車で移動し、自宅ではテレビやスマートフォンを見ながら座って過ごす。運動不足という言葉はよく耳にしますが、実はもう一つ、現代人が意識したい問題があります。それが、座りすぎです。

厚生労働省の健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023でも、座位行動、つまり座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意することが推奨されています。座位行動とは、座ったり横になったりした状態で、覚醒している時間にエネルギー消費が少ない活動を指し、デスクワークやテレビ・スマートフォンの使用なども含まれます。

今回は、特に働く世代に向けて、なぜ座りすぎが問題なのか?身体の中で何が起こるのか?忙しい毎日の中でどう対策すればよいのか?を、現在のエビデンスをもとに考えてみましょう。

目次

運動しているから大丈夫!ではない?

まず一つ、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。

それは、運動することと、座りすぎを減らすことは、同じではないということです。

例えば、平日は朝から夕方までほとんど座って仕事をして、帰宅後も座って過ごし、週末だけジムで1時間運動する。。。

もちろん継続した運動習慣があることは素晴らしいことです。しかし、それだけで平日の長時間の座位行動による影響をすべて帳消しにできるとは限りません。

世界保健機関(WHO)の身体活動・座位行動ガイドラインでは、成人について、座位行動が多いことと、総死亡、心血管疾患死亡、がん死亡、心血管疾患、2型糖尿病などの健康リスクとの関連が示されています。

そして重要なのが、座っている時間を、軽い身体活動を含めた何らかの身体活動に置き換えることにも健康上のメリットがあるとされている点です。つまり、必ず毎週ジムに行かないと、健康のためにならない!というわけではないということです。立つ。少し歩く。階段を使う。コピーを取りに行く。遠いトイレまで歩く。こうした毎日の小さな動きも、健康を保つという意味ではとても大切なのです。

座り続けると、身体の中では何が起こる?

では、なぜ座りっぱなしが身体に影響するのでしょうか。座っていると、立っているときや歩いているときに比べて、下半身の筋肉を使う量が大きく減ります。足は第2の心臓と呼ばれるように足、特に太ももやふくらはぎなどの大きな筋肉は、歩行や立位によって血液循環を助けています。

ところが長時間座った状態が続くと、脚を動かす機会が減り、下肢の筋肉活動も低下していきます。日本体力医学会では、長時間の座位行動と、血管機能、血圧、血糖代謝などとの関連について研究が整理されており、座位時間を減らしたり、長時間の座位を中断したりすることが心血管代謝面で有益となる可能性が示されています。

もちろん、何分以上座れば必ず病気になる!という単純な話ではありません。WHOも、現時点ではすべての成人に共通する座位は○時間以内という明確な上限値を設定できるだけの十分な証拠はないとしています。だからこそ大切なのが、できるだけ座り続けない!という考え方なのです。

座りすぎは心臓にも関係する

座りすぎの問題は、腰痛や肩こりだけではありません。特に働く世代に知っていただきたいのが、循環器・代謝への影響です。

座位行動についての2025年の日本公衆衛生学会では、日本人を対象とした研究を含め、座位行動と死亡、循環器疾患、がんなどとの関連がしめされています。また、座位時間が長くなるほど健康リスクが高くなることも紹介されています。循環器病予防の観点からまとめられた総説でも、身体活動量を増やすだけではなく、座位行動を長時間続けないよう、こまめに中断することの重要性が示されています。

ここで誤解して頂きたくないのは、座って仕事をしている人は、将来必ず心臓病になるという意味ではありません。血圧、血糖、脂質、喫煙、睡眠、食生活、体重、遺伝的要因など、健康には多くの要素が関係します。ただし、現代の働く世代にとって、長時間座るという生活パターンそのものが、無視できない健康要因になっている事は事実です。

肩こり・腰痛は身体からのサインかもしれない

座りっぱなしで起こりやすい、より身近な問題が肩こりや腰痛です。パソコン作業では、画面を見ながら頭を前に出し、肩をすぼめ、同じ姿勢を長時間保ちやすくなります。集中していると、本人は、そんなに長く座っているつもりはなかったと感じることもあります。気づいたら昼休みまで一度も立っていなかった。気づいたら2時間、3時間ずっとパソコンの前だった。こうした働き方は現代では決して珍しくありません。

職場での長時間座位と筋骨格系の痛みとの関連も報告されています。近年の職場における座位行動研究では、デスクワークを中心とした長時間座位が、身体活動不足だけでなく、腰や背中などの筋骨格系の問題とも関連することが指摘されています。肩や腰がつらくなったとき、年齢のせい、運動不足だからと片づけるのではなく、同じ姿勢を続けていないかな?と一度振り返ってみることも大切です。

20代はまだ若いから大丈夫ではない

20代の方からすると、生活習慣病は40代以降になってからの話と思うかもしれません。しかし、座りすぎは年齢に関係なく、日々の生活習慣として積み重なります。20代では仕事を覚えるためにパソコンに向かう時間が長くなり、30代では仕事に加えて子育てや家庭の負担が増え、40代では管理職や責任ある仕事が増え、50代60代ではさらに仕事の責任や身体の変化が重なってくる。

このように、働く世代は年代によって理由は違っても、座る時間が長くなりやすいのです。しかも、若い時には症状が出にくいため、何も問題ないと感じやすい。だからこそ、20代から座りっぱなしを減らすという習慣を身につけておくことには意味があります。

30~40代は忙しいから動けないが最大の壁

30~40代になると、健康のために運動したいと思っていても、仕事、家事、育児などに追われ、運動時間を確保できない方が増えてきます。仕事が終わってからジムに行く余裕なんてない!そんな声も少なくありません。ここでおすすめしたいのが、運動時間を新しく作るのではなく、座っている時間を少し減らすことです。例えば、パソコンでメールを確認する前に一度立つ。

オンライン会議の一部を立って参加する。コピーや書類を取りに行く仕事を誰かに頼むのではなく、自分で歩いて取りに行く。昼休みに5~10分だけ歩くエレベーターではなく階段を一部使う仕事中に水分を取りに行く電話をするときだけ立つ。これなら30分の運動時間を確保できなくても実践できます。

厚生労働省の身体活動・運動ガイド2023でも、成人には、日常生活の中で身体活動を増やすことに加えて、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2~3日行うことなどが推奨されています。そして同時に、座位行動が長くなりすぎないよう注意することも示されています。運動と座りすぎ対策、忙しい生活の中で運動時間の確保をすることはなかなか難しくても、座りすぎ対策は気持ちの持ち方を変えるだけで、今日から、今から実践できます。まずは小さな1歩から始めてみましょう。

50代60代は筋肉を守るという視点も

50代になると、体重は若い頃と変わらないのに、以前より疲れやすい、階段がつらい、少し歩いただけで脚が重いと感じることがあります。もちろん原因は一つではありませんが、身体を動かす機会が少ない生活が続けば、筋力や体力の維持にも影響します。特に、座っている時間が長い生活では、下半身の筋肉を日常的に使う機会が少なくなります。筋肉は単に重い物を持つためのものではありません。歩く、立つ、階段を上る、姿勢を保つ。日常生活そのものを支える重要な組織です。

厚生労働省は成人に対して、筋力トレーニングを週2~3日行うことを推奨しています。今から急に頑張る必要はありません。

まずは歩く。立つ。階段を使う。そして無理のない範囲でスクワットなどの筋力トレーニングを取り入れる。将来のために今から筋肉を貯金するという考え方もおすすめです。

秋・冬こそ座りすぎに注意

季節によって、私たちの活動量は変わります。夏は暑さを避けて室内にこもりやすく、エアコンの効いた部屋でパソコンやスマートフォンを見る時間が増えます。秋になると仕事が忙しくなり、運動を後回しにしがちです。そして冬。寒い朝に布団から出るのもつらく、外を歩く機会も減り、仕事が終わる頃にはすでに暗くなっています。忙しいから今日は無理!寒いから外に出たくない!こうした日が何日も続くと、知らないうちに身体を動かす時間が減っていきます。気候のよい日には積極的に歩く。暑い日、寒い日には屋内でできる筋力トレーニングやストレッチを取り入れる。そして一年を通して、長時間座り続けないというルールを持っておく。そのような気持ちを持つだけでも、良い健康習慣になります。

30分に1回立たないといけない!と決めなくてもいい

座りすぎ対策というと、30分ごとに必ず立ちましょう!1時間ごとに5分歩きましょう!という具体的な数字を聞くことがあります。しかし、現時点では、すべての成人に対して「何分座ったら必ず何分立つべき」という一律の時間基準が確立しているわけではありません。WHOも、座位行動について具体的な時間の上限を設定するには証拠が不十分としています。

一方で、長時間の座位を中断することが健康面で有益となる可能性を示す研究は蓄積しています。そのため、○分という数字に縛られるより、気づいたら立つ、仕事の区切りで動く、という習慣を作るほうが、長く続けやすいでしょう。

例えば、メールを10通返信したら一度立つ。会議が終わったら給湯室まで歩く。トイレに行くついでに少し遠回りする。水分をこまめに取る。こうした小さな工夫で十分です。

運動できない日も、ゼロにしない

健康のために運動しようと思うと、30分歩かなければ!ジムに行かなければ!汗をかかなければ!と考えてしまう方がいます。

でも、WHOは何もしないより、少しでも身体を動かすほうがよいとしています。忙しい日は、5分歩く。エレベーターを一度だけ階段にする。仕事中に数回立つ。家事を少しだけ増やす。これも大切な身体活動です。今日は運動できなかったと落ち込まずに、今日は座りっぱなしを少し減らせたと前向きに考えてみてください。健康づくりは、100点を毎日取ることではありません。60点、70点の日があってもいい。意識づけをして、長く続けられる方法を見つけることのほうが大切です。

仕事の効率を落とすどころか、働き方を見直すきっかけに

座りすぎ対策というと、仕事を中断するから効率が落ちるのでは?と心配になる方もいるでしょう。しかし、座位行動を減らすことは、単に健康のためだけではありません。長時間同じ姿勢を続けて肩や腰がつらくなれば、仕事への集中力にも影響します。座る時間を減らすというより、身体を動かしながら働く時間を増やすと考えてみるとよいでしょう。立って電話する。短い打ち合わせなら歩きながら話す。可能であれば立位でオンライン会議に参加する。昼休みは食事のあと少し歩く。仕事の合間に肩を回す。職場全体でこまめに動く文化をつくる。これは個人の努力だけでなく、職場環境の工夫としても重要です。

今日からできる座りすぎ対策

最後に、忙しい働く世代の方に、特におすすめしたい考え方をまとめます。

まず、運動する時間を作らなければと考える前に、現在どれくらい座っているかに気づくことから始めてみましょう。

朝、通勤してから昼までほとんど立たない。昼食後から夕方までパソコンの前。帰宅後はテレビやスマートフォン。―こうしてみると、思っている以上に座っていることに気づくかもしれません。次に、仕事の中に立つきっかけを作ります。メール、電話、会議、コピー、給水、トイレなど、日常の行動と立つをセットにしてしまうのです。さらに、週の中で有酸素運動を確保し、筋力トレーニングも取り入れていきます。厚生労働省の2023年ガイドでは、成人について、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2~3日行うことなどが推奨されています。もちろん、現在ほとんど運動していない方は、できる範囲から徐々に増やしていけば構いません。

そして何より、座っている時間を減らすことと運動することを、別々の健康習慣として考えること。これが、現代の働く世代にはとても大切です。

最後に、身体は「動かして」と言っている

パソコンは、私たちの仕事を便利にしてくれました。スマートフォンのおかげで、どこにいても連絡が取れるようになりました。オンライン会議によって、移動せずに仕事ができるようにもなりました。

便利になった一方で、私たちは歩く、立つ、身体を使うという機会を少しずつ失っています。

だからこそ、これからの健康づくりでは、もっともっと運動をしなければという考え方ではなく、まず、座りっぱなしをやめよう!という視点が必要です。夏は暑さを理由に、秋や春は忙しさを理由に、冬は寒さを理由に、身体を動かす機会が減ってしまうことがあります。そんなときこそ、特別な運動ではなく、日常生活の中で身体を動かす回数を少し増やしてみましょう。

立つ。歩く。階段を使う。身体を伸ばす。そして、また仕事に戻る。

たった数分の小さな動きでも、座り続けないという選択になります。今から始めれば、それはこの先の健康を守る習慣につながっていきます。仕事は座っていても、健康まで座らせたままにしない。この秋、そして寒い冬に向けて、まずは今日、いつもより一度多く立つことから始めてみませんか。

参考・引用文献

1. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html


2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
推奨シート:成人版」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-002


3. World Health Organization. WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary
Behaviour. 2020.

https://www.who.int/publications/i/item/9789240014886


4. World Health Organization. WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary

https://www.who.int/publications/i/item/9789240015111

5. 日本公衆衛生学会「座位行動研究のUp to Date」2025.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/72/1/72_24-057/_article/-char/ja

6. 日本循環器病予防学会「座位行動と循環器疾患」2025.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcdp/60/1/60_25/_article/-char/ja

7.
日本体力医学会「座位行動と心血管代謝疾患:実験的研究に基づくエビデンスとメカニズ
ム」2022.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/71/1/71_147/_article/-char/ja


8. 日本心臓財団「仕事中の身体活動・座位行動と健康」2024.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/56/9/56_863/_article/-char/ja


9.木庭新治「動脈硬化性心血管疾患予防に向けた運動療法・身体活動の意義」『日本内科学
会雑誌』2023.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/112/2/112_209/_article/-char/ja


10.「脳心血管病リスク因子に対する座位行動の減少に関するシステマティックレビュー」『
理学療法科学』2018.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/33/5/33_817/_article/-char/ja 

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この記事を書いた人

8年間、循環器専門病院や専門病棟にて循環器内科・外科・集中治療室勤務しておりました。皆様に必要な情報を分かりやすくお届けできるようにしていきたいです。