はじめに
皆さんこんにちは。胚培養士の川口 優太郎です!
アメリカ・カナダ・メキシコで開催されている、4年に一度の待ちに待ったサッカーW杯も終盤を迎え、このコラムを書いている時点ではベスト8までが決定しています。4歳の頃からサッカーをはじめて、小学生の頃にはイタリアにサッカー留学、中学からはJリーグプロチームの下部組織に所属して、一時期は本気でプロを目指していたことがある(?!)私も、日々繰り広げられる熱戦にやや寝不足状態が続いています(仕事はしっかりこなしていますのでご心配なく!)
私が個人的に注目している代表チームは、ハリー・ケイン選手を擁するイングランド!それから、2010年以来2度目の優勝を狙う“無敵艦隊”ことスペイン(ラミン・ヤマル選手ってまだ19歳なの?!と驚愕する日々‥‥)!また、惜しくもアルゼンチンに敗れてしまいましたが、カーボベルデ代表の戦いぶりにはめちゃくちゃ胸が熱くなりました。
そんな、世界中がサッカー『熱』に包まれている現在、比喩表現ではなく物理的にも記録的な『熱』が世界を包んでいることをご存知でしょうか?
今回は、世界中で報告されている記録的な『熱波』と、この熱に曝露されることによって受ける影響やリスク、そして妊活・妊娠に与える影響などについて解説をしていきたいと思います。
死者1万人越えの記録的『熱波』が襲来!!
本コラムのタイトルにある“極度の暑さ”ですが、2026年6月22日~28日にかけてヨーロッパを中心に記録的な『熱波』が襲来した‥‥というニュースをご覧になった方も多いのではないかと思います。
ハンガリーでは気温42.0℃、フランスでは43.8℃、スペインでは45.1℃を記録し、大規模な山火事まで発生する一大事となっています。
欧州疾病予防管理センター(ECDC)と世界保健機関(WHO)によると、7月上旬の発表時点で、EU加盟国全体でこの熱波が原因とされる死者数は1万1千人に達しており、2000年以降では熱波による死者数としては過去最高を記録したことを報告しています。さらには、「合計死亡者数は数週間以内に更新される可能性が高い」との声明を出しており、今後も死者数は増加していく見込みです。
また、7月6日にイギリス気象庁とロンドン大学・衛生熱帯医学大学院が発表した最新の調査によると、気温が上昇し始めた5月下旬から熱波が襲った6月までの段階でイングランドとウェールズだけで2,700人以上が死亡したと発表しており、この熱波の影響でイギリス、フランス、スペインでは電力供給が途絶え、公共機関の閉鎖や学校が休校となるなどの緊急事態となっています。
『熱波』を引き起こした原因とは?
そもそもこの『熱波』は、北アフリカから暖かい空気が流れ込み、この暖かい空気を上空の強い高気圧が閉じ込める「ヒートドーム現象」が起こったことが要因と考えられていますが、近年、ヨーロッパを中心に各地で『熱波』の頻度や強度が顕著に増加しており、気候変動や地球温暖化との関連も指摘されています。
「ヒートドーム現象」は、今年だけでなく過去にも度々観測されており、世界各地で深刻な健康被害やインフラへの影響を引き起こしています。2021年には、ヒートドーム現象によりカナダやアメリカの西部に記録的な『熱波』が襲い、鉄道のレールが歪む、アスファルトの道路が隆起する、大規模停電、などが引き起こされました。
現在では、北米やヨーロッパを中心に、各国で『熱波』による熱中症への厳重な警戒が呼びかけられています。
男性と比較して、女性は『熱波』による死亡リスク・健康リスクが高い
当然ながら、このような“極度の暑さ”は年齢や性別を問わず誰にでも影響を与える可能性があるわけなのですが、近年の研究で、男性よりも女性のほうがより熱波による影響を受けやすく死亡リスクや健康リスクが高いことが学術的な論文によって報告されています。
2024年に、英・University College of London・グローバルヘルス研究所の研究チームがEuropean Journal of Public Health(※ヨーロッパ公衆衛生学会(EUPHA)が発刊している、公衆衛生学分野において世界的に最も高い評価を受けている学術誌の一つ)に発表した論文では、どの年齢層においても女性のほうが男性よりも熱中症による死亡リスクが有意に高く、これまでに発表されている複数の研究論文におけるランダム効果メタ分析の結果では、少なくとも8%以上も死亡リスクが高いことが示されています。
なぜ女性の方が熱曝露への影響を受けやすい?
では、なぜ生物学的に女性の方が熱波による健康リスクが高いのか?ということですが、2025年にBuilding and Environment(※Elsevier社が刊行するQ1ジャーナル(インパクトファクターが上位25%以内に位置する高い評価を受けている学術誌)の一つ)に、仏・ボルドー大学の研究チームが発表した論文では、
1.女性は、男性と比較して発汗量が少なく発汗をし始める体温が高い
発汗量が少ないことで、体内の余分な熱を素早く放出する/熱を身体の外に逃がす能力が低い。
また、発汗しづらいことで身体が熱による負荷を受けているかどうかを判断することが難しい。
2.女性は、男性よりも体幹温度と体脂肪率が高い
体脂肪率が高いと、脂肪が断熱層のような役割を果たしてしまい、外側からの温度変化を感じにくかったり熱に対する反応を鈍らせてしまったりする。反対に、身体の内側からの熱の放出を遮断してしまう。
3.女性は、男性よりも平均寿命が長く認知症などのリスクも高くなる
熱中症のリスクは年齢が上がるほど高くなるが、女性は男性よりも平均寿命が長いため、健康への影響を受けるリスクも高くなる。また、高齢になるほど認知症のリスクが高くなり、認知症になると体温調節機能や喉の渇きを認識する能力が低下する。
という、以上の3つの要因について専門的に解説されています。
妊娠中は特に注意が必要!暑い環境への曝露は母体だけでなく“胎児”もハイリスク!
さらに、2026年にThe Lancet(※世界五大医学雑誌の一つ)にロンドン大学・衛生熱帯医学大学院の研究チームが発表した最新の論文では、このような“極度の暑さ”が女性ホルモンの分泌に異常をきたすことも指摘しています。
いわゆる女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌は、主に月経周期において変動し、低温期・高温期などの体温調節を伴う変化をもたらしますが、『熱波』のような外部からの強い熱刺激が加わると、ホルモン分泌の機構に異常をきたして脳の体温調節システムがバランスを崩してしまう可能性を示唆しています。
特に、妊娠中の女性は注意が必要で、妊娠初期から中期にかけてはプロゲステロン値の変動に伴い体温が上昇しますが、妊娠初期の妊婦では代謝熱(※生命維持活動のために栄養素をエネルギーへ変換する過程で起こる熱の“産生”と、体外へ逃がす熱の“放散”のこと)と必要な水分量が急激に増加するため、体温調節が難しくなり、熱によるストレスを受けやすくなります。
また、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などのハイリスク妊娠においては、早産や死産など、母体だけでなく胎児にも極めて有害な結果をもたらすことも報告しています。
熱曝露は胎児心拍数の増加と関連していることが知られており、職業上の理由またはアスリートの女性などで妊娠中に一定期間以上熱曝露があった場合、約23.2%も早産率が上昇することも明らかとなっています。
『熱中症』の兆候をよく理解し、すぐに処置することが大切!
以上のように、男性と比較して女性のほうが熱ストレスに対する影響を受けやすく、健康へのリスクも高いことが明らかとなってきていますので、体調管理と十分な対策を行っていく必要があります。
関東圏を中心に、日本でも連日のように35℃を超える猛暑日が続いていますが、猛暑によって心臓への負担が増加すると、血圧が低下し発汗による水分と塩分の喪失と相まって熱中症が起こりやすくなります。また、心臓への負担が増えることで心血管疾患の発症率や死亡率も顕著に高くなってしまいます。
そこで、対策をするためには何よりも「熱中症の“兆候”」を知っておくことが大切です。
熱中症の主な症状には、
- 意識の錯乱
- 体温40℃以上に上がる
- 体温が高いにも関わらずほとんど発汗しない
- 皮膚が乾燥する
- 吐き気や嘔吐
- 意識の喪失
- けいれん発作
などがあります。
自分だけではなく、家族や友人、同僚など、周り人たちがこのような症状を少しでも訴えたら、すぐに水分補給や涼しい環境に移動し、医療機関を受診するなど少しでも早く適切な対処をしましょう。
まとめ:こまめに水分+塩分補給を!
今回は、世界中で観測された記録的な『熱波』と、極度の暑さが女性の健康に与える影響について解説を行ってきました。
このコラムを書いている段階ではまだ7月の初旬ですが、6月後半からすでに猛烈に熱い日々が続いています。最近では、“暑さ指数:WBGT(※熱中症を予防するために用いられる指標で、気温だけでなく「湿度」「日射・輻射熱」「風」などの要素も計算され、ヒトの身体が感じる熱ストレスを評価した値)”や“熱中症アラート”という言葉も頻繁に聞かれるようになり、8月に向けてこれからさらに本格的な夏を迎えていきます。
今回のコラムで解説してきた通り、女性のかた、特に妊娠中(妊娠初期~中期)の方は、熱への曝露がハイリスクであることを理解した上で十分な対策を行っていただけたらと思います。特に、大量の汗をかいた際に必要となるのが、水分補給+“塩分補給”です。汗とともに失われた塩分を補わないと、水を飲めば飲むほど体液/血液の濃度が薄くなっていき、体調はどんどん悪化してしまいます。“塩分補給”には体液に近い成分である経口補水液やスポーツドリンクなどを活用するのが効果的です。
(サッカーサポーターからは不評のようですが‥‥)、是非こまめな『ハイドレーションブレイク』を心がけましょう!ロー!!
- 国土交通省 気象庁 毎日の全国観測地ランキング
https://www.data.jma.go.jp/stats/data/mdrr/rank_daily/index.html
- AERA DIGITAL なぜ35度超えが当たり前に?猛暑を生む地球の異変「ヒートドーム現象」とは
https://news.yahoo.co.jp/articles/24a15e5102199da55b511b670662f9a308c78ac4
- ウェザーニュース
https://weathernews.jp/?fm=header
- Sex differences in mortality associated with heatwaves: a systematic review and meta-analysis, European Journal of Public Health, Volume 34, A Pinho-Gomes et al.
- Do women feel colder by nature? A systematic literature review and meta-analysis of sex differences in physiological and subjective thermal responses, Building and Environment, Volume 277, 1 June 2025, 112936, Marika Vellei et al.
- Physiological and biological response to heat exposure in pregnancy: a systematic review and meta-analysis, The Lancet Planetary Health, Volume 10, Issue 4, April 2026, 101431, Ana Bonell et al.
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